新・三つの棺-「幻影の書庫」日記

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硝子の塔の殺人

 
おおぉ、なるほどねぇ。
 
これだけの面子が帯にコメントを寄せていて、
その中で表には島荘と綾辻の二人というのにはちゃんと理由がある。
 
特に綾辻の「ああびっくりした」は他の人たちの驚きとは、
全く別の話なので、これって驚愕の作品なんだ、とか思わなくてもいいかも。
 
とはいえ、それとは違う意味で、驚ける作品ではあると思うけどね。
 
本書が純粋に本格ミステリとして優れているかというと、
そうではないと私は思う。
ただ、そうではないこと自体も、意味があるとも言える。
 
技巧的に優れているかというと、実はさほどでもない。
ただ、さほどではないくせに、これを成立させてるって意味では、
上手いことやったなと思う。
 
ネタバレにはならないように、だけどある程度は意図的に、
思わせぶりな記述にはしてきたけれど、やはり本作についてはちゃんと語りたい。
特に自分が評価してる点については。
 
というわけで、ネタバレ語りは「続きを読む」の中で。
 
おっと、表(おもて)としては、最後に採点が必要だな。
やはりこれだけ珍しいことをやってくれた点は評価すべきだと思うので、採点は8点。
順位は悩むなぁ。「兇人邸」との対マンだとこっちかなってことで21年の3位に。
 
あ、も一つ表の最後に。
やはり本書はミステリ読み、それもある程度新本格を読み込んだ読者こそが、
多少特権的に愉しめる作品であることは間違いないと思う。
 
では、ネタバレ語りへ。
 
 
(ここから「硝子の塔の殺人」のネタバレを行います。
 未読の方は、それなりの覚悟でお進みください)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
それでは、「硝子の塔の殺人」のネタバレ語り始めます。
 
 
個人的に本作を評価するのは、ミステリそのものというよりは、
『不自然ではないメタミステリ』を成立させた、この手法にある。
 
通常のメタミステリは、フィクションの中の人物が、リアル(現実)に対して、
言及する、もしくは干渉してくるというもの。
これはどうしても読者自身がリアル(現実)の世界にいるだけに、
不自然さを払拭することが出来ない。寡聞にして私は成功例を知らない。
唯一例外を挙げるとすれば「虚無への供物」かなと思うくらい。
 
なので、『不自然ではないメタミステリ』を成立させるためには、
基本的にはメタレベルを一つ下げる以外に方法が無い。
 
通常はメタレベルを一つ下げるためには作中作を使うのが定番。
 
フィクション(作中作)の中から、フィクション(作品)に向かって
言及する、もしくは干渉してくるというものなので、
フィクション(作品)の中で完結して、成立させることが可能になる。
 
ところが本書はメタレベルを下げることなく、
同じ階層の中で、これを成立させることに成功している。
 
それほど難しい技巧を使わずして、これを成立させたのだから、
やはり手法の勝利だろう。
 
これが私が本書を高く評価する理由。
 
また、こういう構造の中で、片方の探偵役がもう片方の犯人役と
なるなど、ちゃんと反転の構図を展開しているのも心地良い。
しかも双方向で反転させてるのだから、構図が美しい。
 
最後に一つ。
 
本書もまた探偵の苦悩ものではあるんだけど、
その中では動機に妙な説得力があって、面白みが感じられたかな。
 
だってこれって、本格ミステリ版「アンブレイカブル」だよね。