新・三つの棺-「幻影の書庫」日記

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全六章。読む順番で、世界が変わる。
あなた自身がつくる720通りの物語。

 
非常に興味深い試み。
 
なので、まず読み始める前に、こういう着想で本を作るとしたら、
自分ならどういう構想にするだろうかと考えてみた。
 
そうだな、やはり本格厨な自分なら、1編1編にその作品内では解けない謎を仕込んでおいて、
別の作品の謎解きも必ず1つ盛り込むようにする。
どの謎がいつどんな形で解けるか、組み合わせによって全く違うものになる。
 
さて、では、道尾秀介はどういう構想を見せてくれるのか。
 
まず、どういう順番で読んでみるか。冒頭の全六章の書き出しを読んでみて、
一番いい話っぽい気がした「消えない硝子の星」を読んでみた。
さて、次にどうするか。ふと、初出一覧を見てみると、たまたまこれが雑誌掲載最後の作品だった。
よし、では、発表順と逆順に読んでみよう。ランダムに読める作品だと言っても、掲載順には
作者の意図が入ってるかもしれない。それと真逆に読むことで、本書の成功度合いが見えてくるかも。
(嫌らしい読者で申しわけない。でも、こういうのもミステリ者の性だよね)
 
結果的には、本書には明解な構想は見えなかった。共通の登場人物を様々な時間軸で組み合わせて、
順番によって、作品としての印象がなんとなく変わる。そんな意図でしかなかったように思えた。
 
ただ、その中でも明らかに、私が読む前に構想したように、実は謎が仕込まれていて、
別の作品でそれが解かれるという組み合わせも存在している。
その一番の代表が、謎が「笑わない少女の死」であり、解決が「消えない硝子の星」
前者が最初に発表された作品で、後者が最後に発表された作品。
出来るだけ引き延ばそうという作者の意図が見えてくるではないか。
 
しかも読んでいただければわかるが、この「笑わない少女の死」が一番重たく気が滅入る作品。
逆順に読んでしまった自分には、どうにもこうにも読後感が良くなかった。
 
これから読まれる方は、出来るだけ早めに「笑わない少女の死」を読んで、
必ずそれより後のどこかで「消えない硝子の星」を読まれることをお薦めします。
 
広義のミステリかどうか結構微妙な点はあるけれど(ただSRのリストには載ってくるかな)
本の構造は無茶苦茶面白かったけど、明解な構想は見えなかったので、採点は7点で。