新・三つの棺-「幻影の書庫」日記

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フーガはユーガ

フーガはユーガ

フーガはユーガ

 
これまで一貫して「伊坂幸太郎の本質は異世界ファンタジーである」と書いてきた。
さしずめ本書などは、双子が瞬間移動で入れ替わる設定を見ただけでも、
いかにもその王道的な話かと思えてしまうだろう。
 
だが、しかし。
 
違うのだ。
 
これは異世界ファンタジーなんかでは断じてない。
一見そう思わせておいて、これはリアルの醜悪さを描いた作品。
読後感がまるで真逆。爽快さなんて全然感じられない。
 
たしかに「理不尽な暴力」というのは、作者のモチーフの一つではあるけれど、
読み終えるときにはそれを乗り切れる作品に仕上がっていたと思う。
 
でも、本書の救いは存外低い。
醜悪さを拭いきってくれないままに終わる。
 
これが作風の変化だとしたら、とても悲しい。
この一作だけの話であればいいのだけど。
 
ストーリーは作り込まれてて、
この作者によっては弱くはあるが、伏線と回収はそれなりにされていて、
物語自体は面白いものだとは思うのだけど、
やはり感情的には受け容れられない。
 
一応、ミステリ分類には入れて、採点は6点としたい。