新・三つの棺-「幻影の書庫」日記

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首折り男のための協奏曲

首折り男のための協奏曲

首折り男のための協奏曲

長編でも連作でもないんだけど、ゆる〜く繋がってるあたりが
単なる短編集の枠を越えていて、個人的には心地良かった。
 
実験的な手法の作品が混じってるのも、個人的にはツボ。
 
中でも「月曜日から逃げろ」は傑作。
後書きに書かれてた、長編で使おうとしてた仕掛けってのは、
勿論この作品のことだろう。
狭義の本格ではないけれども、自分が本格ミステリの年間アンソロジー
編むならば、間違いなく選択する一編だな。
 
手法が仕掛けに繋がってるわけではないが、単なる合コンする話を、
ダイナミックでスリリングな話に仕立ててしまう「合コンの話」もいい。
最後は軽やかなツイストも決めてくれるし。
 
でもってやっぱり本作も、伊坂幸太郎の本質は異世界ファンタジーであるという
自分の主張に沿ったものだったなぁ。
怪談話の「相談役の話」は直接的なものだとしても、一番よくその本質が
現れてるのが「人間らしく」ではないだろうか。
入れ子構造のように、現実が異世界にすり替わっていく。
「首折り男の周辺」のラスト付近の展開もそう。そもそも首折り男のいる世界自体が
緩やかに異世界だけど、そこから時間物や並行世界の雰囲気を滲ませる。
伊坂流のとぼけきった暗号恋愛小説「僕の舟」だって、異世界ファンタジーだと
簡単に強弁できるくらいの希薄な現実感だもの。
 
自分としては愉しめた作品。文句なく7点を進呈しよう。