新・三つの棺-「幻影の書庫」日記

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議会に死体

議会に死体 (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)

議会に死体 (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)

原書房様からの献本。どうもありがとうございました。頂き物なので特別に先行して、「幻影の書庫」掲載用のフル・バージョンで感想を。

議会演説で市政批判を繰り広げた議員が、ほんのわずかな休憩時間に刺殺体で発見された。錯綜する証言に、やがて浮かび上がったある真相とは…。巧妙なミスディレクションと伏線に彩られた名匠の代表作。

まさに叢書の名称である”ヴィンテージ・ミステリ”にふさわしい、薫り高き黄金本格の名品。
見かけは一見地味で淡々とした警察小説でありながら、『警察官よ汝を守れ』同様、意外にアクロバティックな謎解きの快感が待ち受けている。
手描きのダイイング・メッセージや、アリバイ物に欠かせない行動時間表など、本格のガジェットも喜ばせてくれる。平均時間を取ってみるあたりなんか、ニヤッとしてしまった。そればかりか本当に最後の一行で炸裂する、最後の一撃(ファイナル・ストローク)まで味わえてしまうぞ。
堅実な本格であるばかりではなく、サプライズがはんにんのどんでん返しのみならず、たんていのどんでん返しにもなっているという、皮肉な味わいも本書の魅力の一つだろう。バークリーなどの皮肉屋にも通じる、これもある意味黄金時代らしい一面なのかもしれない。
先に地味と書いてしまったが、決して退屈な作品などではない。早い段階で事件は起こるので、延々と人物群像を読まされる心配なんかは不要。人物も良く書けていて、派手さはないもののリーダビリティーは問題無し。
何よりその中に、後から明かされれば実にあからさまとも思えるくらい、堂々と大胆に伏線が張られているのだ。「ああ、知っていたのだ。たしかに私は知っていた」と、私と同じように貴方も嘆息するかもしれない。
間違いなくふくよかなヴィンテージを味わえた作品。採点は8点。