新・三つの棺-「幻影の書庫」日記

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死龍 スロン

原書房様からの頂き物。いつもありがとうございます。

死龍

死龍

作者の久々の力作。
(もう7年ぶりになってしまうのか。
 もっともっと読ませて欲しい。新作でなくても若書きのバカミス過ぎて
 出版できなかった作品達を、リライトして出せたりしないものか)
 
ノワールでありながら、本格ミステリ
伏線・構図の妙はやはり藤岡節か。そして前作のようなトリックの妙。
 
ただ若干感想を書きにくく感じるのは、構想時点の作者の意図と
この完成品とに乖離があるんじゃないか、という懸念を覚えてしまったから。
特に全体の構図において。
 
私の本音としては「ノワールでありながら、本格ミステリ。」
の後にもう一文「本格ミステリでありながら、バカミス。」
と書かせて欲しかった。
そして、この構図は本来はそれを意識したものではないかと思えたのだ。
 
優秀なコメディがそうであるように、優秀なバカミスを成立させるための
大きな要件の一つに『落差』が挙げられると思う。
それが最大限に発揮されたのが作者の代表作「六色金神殺人事件」だろう。
 
本作もその発想としては大きな『落差』を生じ得る構図だと思うのだが、
だいぶノワール側に倒れてしまってて、驚きへの繋がりが弱かった。
 
幾つものWHOに関しての数々の伏線やミスリードは良かった。
それに関連しての、ある人物の末路の脱力感なども、
『落差』の演出の一つかもしれないとも思う。
 
個人的趣味としてはバカミスにもっと倒れてて欲しかったし、
そのポテンシャルのある作品だと思えたので、採点は6点とするが、
読み応え充分のノワール本格ミステリの力作であることは間違いあるまい。