新・三つの棺-「幻影の書庫」日記

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スペシャルアクターズ

10/21(月) イオンシネマ新百合ヶ丘にて鑑賞。
 
「イソップの思うつぼ」は三人の共同監督だったので、
これが正式な上田慎一郎監督の劇場長編第2弾。
 
勿論「カメ止め」と比較するのは可哀想ではあるけれど、
観に行くには十分な程度には面白かったと思う。
 
あちらが前半後半折り返しでのドカンと一発どんでん返しで、
後半は前半で張りまくった伏線の回収の面白さに徹していたのに対し、
こちらはどんでん返しを何段にも繰り返し繋げることで、
どんでん返し自体を楽しく見せる構造になっている。
(その分やっぱ伏線はさほど張られてないのが難点)
 
前作が裏表構造なら、本作は入れ子構造。
 
構造はより複雑で巧緻にはなってるんだけど、
シンプルな面白さには敵わないってのが、世の習いなわけで。
一生、「カメ止め」の上田慎一郎って言われちゃうのかな。
 
まぁ、でも鑑賞後感は良かったし
(ラストの兄のリアクションは違ったものであって欲しかったけど)
こういう構造の作品にこだわってくれてるのは嬉しいので、
次作も多分観に行くことになるだろう。
 

シーソーモンスター

シーソーモンスター (単行本)

シーソーモンスター (単行本)

 
海族と山族という二つの一族の裏歴史的な対立という設定を使って、
8人の作家が別々の時代を描いて、全体でタペストリー状に浮かび上がらせるという
「螺旋プロジェクト」ってのの一冊のようだ。
 
一冊ではとても全体を知りようはないので、本書としては
運命的に反発し合う一組と、ちょっと冷めたような審判役とが各作品にいる、
という程度の緩い意味合いでしかなさそうだ。
(審判役ってのはいかにも井坂的な匂いなので、多分独自設定なんだろうけど)
 
昭和と平成をまたぐバブルはじける少し前の「シーソーモンスター」と、
デジタルのログを嫌ってアナログのやりとりが見直されている、
ちょい近未来を描いた「スピンモンスター」の二編が収録されている。
 
特殊な職業の人物が紛れ込んでる日常が非日常に変わっていったり、
一見平凡な人物が日常から非日常へと巻き込まれていったりする、
という、ある意味、伊坂幸太郎としては定型的な二作品。
 
でもって作品的にも、なんかその定型の範囲に収まってるような、
とんがりのない作品のように思えてしまった。
 
面白いことは面白いんだけど、井坂作品としては普通な印象。
 
ミステリではないので(冒険小説系には含まれるとは思うけど)、
採点対象外。
 

幸運女に恋すれど

絶好の飛び石なので、月曜日は休暇を取って四連休に。
初日と最終日は雨模様だったので、日曜日は町田まで、
(夏が過ぎて、ここんとこ二週に一回くらい町田まで歩いてる気がする)
月曜日は映画を見に新百合ヶ丘まで歩きing。

今度の土日が本20%Offなので(なので、来週もまた歩くことになりそうだ)取り合えず下見だけ。すぐなくなっちゃいそうなこれだけは事前にGet。

妻に800円の本を頼まれたので、残り700円を埋める。1.は文庫版の1巻丸々と2巻の半分くらい収録されてるみたいだ。サイズ的に文庫より読みやすくていいし。2.の収録曲は以下。歌い手は内藤洋子,平山三紀,森山加代子,伊東ゆかり,いしだあゆみ,辺見マリ,ヒデとロザンナなど。こういう歌謡曲系は近所のTSUTAYAにほとんど置いてないんだよね。
 
1.白馬のルンナ
2.真夏の出来事
3.人形の家
4.白い蝶のサンバ
5.誰も知らない
6.ブルー・ライト・ヨコハマ
7.経験
8.愛の奇跡
9.真夜中のギター
10.白い色は恋人の色
11.涙の太陽(CRYING IN A STOROM)
12.風が落した涙
13.渚のうわさ
14.私もあなたと泣いていい?
 

未来のミライ

07/19 日本テレビ放映分。

 
典型的なアニメの失敗例。
 
声優ではなく、ちまたに人気のある役者をキャスティングしたために、
最後まで違和感から抜け出せずに、物語世界に入り込めないという、
商業主義のもたらすアニメ映画の失敗あるあるを、どれだけ積み上げていくのか。
(映画館では字幕版しか見ないので、洋画の吹替版では被害は受けずにすんでるが)
 
こういうこともあるので、アニメ映画を見る際には、
出来るだけ事前にキャストは知らないようにしている。
最初から顔が浮かばない分、だいぶましなことが多いんだけど、
それでも当然、ダメなのは、ダメなわけで……
 
くうちゃんの声、これはないわ。
 
見終わった後、調べてみたら上白石萌歌ちゃん。
姉妹二人とも好きだし、演技自体が悪いわけでもないんだけど、
この声ではない!!
 
ここはさすがに男の子役の上手い声優さんを当てて欲しかった。
 
これだけならまだしも、お母さん(麻生久美子)も絵と全然合ってなかった。
意外にミライ(黒木華)は悪くなかったけど。
お父さん(星野源)、ばぁば(宮崎美子)もそんなには違和感なかったかなぁ。
じぃじ(福山雅治)は最高。声優よりいい仕事してたわ。後で知ってびっくり。
 
ってなわけで、内容について語り出す前に長文になってしまった。
細田守がずっと描き続けている家族をテーマにしたファンタジーなんだけど、
今回それを貫いている一本線が、4歳の男の子の「あるある」なんだよね。
だからこそ、そこに違和感バリバリの「ないない」持ち込んじゃダメでしょ。
(って、結局はそこに戻る)
 

沈黙のパレード

沈黙のパレード

沈黙のパレード

 
ほぼ倒叙物の構造を取っているのに、
ハウダニットは明確には描かれずに、
いかにもミステリとしての企みを内包してそうな作品。
 
これって、あの作品と構造が非常に良く似ている、
と読んでる間ずっと思ってたら、その意味もある作品だった。
 
東野圭吾の小説世界と二転三転するミステリ展開が融合した良作。
 
ただ、ある人物像ががらっと反転してしまうなど、
好みによって読後感を大きく揺さぶる要素があるので、
賛否両論分かれてしまうだろう。
 
また、この結末の選び方では、
かえって罪を大きくする方向にしかならないと思え、
もっと何かやりようがあったんじゃないかと、
釈然としない思いが残ってしまった。
 
あの作品を踏まえてのこの結末は正しかったのかと。
 
その辺のもやもや感で点が減じられ、採点はわずかに6点止まり。