可燃物
「このミス」「文春」「ミステリが読みたい!」の三冠。
「本格ミステリベスト10」でも第二位という、超高評価の作品。
ってのが不思議に思えるくらい、すごく地味な作品。
五つの短編それぞれがミステリとして高水準な出来映えではあるのだけど、
キャッチーな感じは少なく、警察小説としての読み甲斐が高いかと云えば、
そうでもないんだよなぁ。
何しろ探偵役の葛警部は、指揮官的な立場でありながら、
組織的に解決するというよりは、自分一人だけで勝手に解き明かしちゃう。
いわゆる通常の名探偵構造と同じではあるのだけど、警察小説という枠内で
描かれているので、名探偵的な装飾は一切無く、特別な魅力は感じれらない。
警察小説としても、本格ミステリとしても、読み物としては中途半端な感じがする。
本格ミステリとしては優秀なので、個人的には上記は別に問題点とは捉えてないのだが、
こんなに一般的な高評価を得ていることに関しては、違和感を覚える。本ミスはともかく。
この本格ミステリとしての優秀性なのだが、ほぼ全ての短編が
ホワットダニットの構造を持っていることが、大きなポイントだと思う。
一見見えている事件の構図とは違う真相が立ち上がってくるところに驚かされるのだ。
ここに米澤穂信が常にこだわり続けている(と私は思っている)ホワイダニットが
実に絶妙に絡んでくる。「何故」を追うことで、「何が」が見えてくる。
あるいは「何が」を想定するところから「何故」が浮かび上がってくる。
この二つが密接に絡んだ作品として、個人的ベストは「命の恩」。
Whatの面で秀逸な「本物か」が二位で、Whyの面で秀逸な表題作を三位で。
本格ミステリ短編集としての精度が非常に高い作品集。採点は勿論8点。