新・三つの棺-「幻影の書庫」日記

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短編ミステリの二百年 1巻

 
自分自身の「海外ミステリ百選」の中でも反則的に選んでいるが、
江戸川乱歩編の「世界短編傑作集」全5巻は、あらゆるミステリ者にとっての
バイブルと呼んでも差し支えない、おそらく全世界的にも比肩するものが無いだろうと
思えるほどの名アンソロジーである。
 
これが「世界推理短編傑作集」という名称でリニューアルされて、本書はその連動企画。
Webミステリーズ!上の「短編ミステリ読みかえ史」という評論自体がまずあって、
その評論と、そこで挙げられている作品をパックにしたアンソロジーになる(全6巻予定)。
 
「世界推理短編傑作集」が1844年から1951年の作品までなので、
本シリーズはそれ以降の作品を中心に編むというコンセプトのようだ。
「世界推理短編傑作集」以降の現代に至る新たな増補版となる期待を感じさせる企画。
 
ただし、最初の巻である本書は乱歩が選んだ年代と完全に被ったものばかり。
なので、「世界推理短編傑作集」の影の内閣を選出するというものだと
評者であり選者でもある小森収自身が書いているのだが、
だとすれば、こんな内閣にはとてもとても任せられるものではない。
あまりにもな落差に、ちょっと絶望的な気分になるくらい。
 
といっても、この第1巻に関しては、乱歩選の年代と被っているだけに、
敢えてディテクション(謎解き)の小説以外から選んでいるという意図があるようだ。
なので、判断は保留して2巻以降に期待を繋ぐしかないが、
選者の視点はミステリ興味自体よりも、作品としての雰囲気や意図や描き方にある気がして、
自分の好みとは大きく差異がありそうな不安しか感じられなかった。
 
良いと思えた作品は、わずかにジョン・コリア「ナツメグの味」の一作のみ。
あとは正直どうでもいい作品ばかりだったのだけど、無理してベスト3を選ぶとすれば、
話の繋ぎ方やオチまで味のあるリチャード・ハーディング・デイヴィス「霧の中」と、
掌編コントであるアンブローズ・ビアス「スウィドラー氏のとんぼ返り」かな。
 
期待感は9点のシリーズだけど、正直この第1巻の採点は6点どまり。
自分の不安が的中しなければいいんだけど……