新・三つの棺-「幻影の書庫」日記

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世界推理短編傑作集 6

 
「海外ミステリ百選」でも別格編として挙げているように、
乱歩編の「世界短編傑作集1~5」は、まさに自分にとってのバイブルである。
これは本当に日本が誇るべき、偉大なるアンソロジーだと思っている。
 
それをリニューアルしたのが、「世界推理短編傑作集」全5巻であり、
本書はそれを補完しようとする試み。
 
この選択がどこまで乱歩の意に沿っているかは、結構微妙なところかのようには思えた。
乱歩が無邪気に面白がる作品選択になっているかな、という感触を覚えるので。
 
ほとんどことごとく未読作品ばかりだったんだけど、
ベスト3を選ぶとすると、確実な既読2作品が上から順に入って来てしまう。
 
ベストは迷うことなくハリイ・ケメルマン「九マイルは遠すぎる」だな。
このフォーマットを作り出したことは賞賛しかない。
第二位がロバート・アーサー「五十一番目の密室またはMWAの殺人」だな。
ユニークな密室トリックに、実際のミステリ文壇をユーモアで描き込む傑作。
第三位はようやく未読作品からマイケル・イネス「死者の靴」で。
スリードに引きずり倒されてしまうわ。やっぱいけずのイネスやわ。
 
未読作品だけでベスト3を選ぶとすれば、このイネスがベストで、
E・S・ガードナー「緋の接吻(せっぷん)」と
ジョルジュ・シムノン「メグレのパイプ」で。
結局全部後期に偏ってしまったな。
 
採点は勿論この巻だけの単独評価としては、さすがに10点や9点は付けられない。
純粋には7点かもしれないが、こういう巻を生み出す意義は評価して8点を。
 
最後に、翻訳家の名訳を集大成したいという、
編者のもう一つの狙いを示すためにも、訳者付きの作品リストを掲載しておこう。
 
「バティニョールの老人」エミール・ガボリオ 太田浩一
「ディキンスン夫人の謎」ニコラス・カーター 宮脇孝雄
エドマンズベリー僧院の宝石」M・P・シール 中村能三訳
「仮装芝居」E・W・ホーナング 浅倉久志
「ジョコンダの微笑」オルダス・ハックスリー 宇野利泰訳
「雨の殺人者」レイモンド・チャンドラー 稲葉明雄
「身代金」パール・S・バック 柳沢伸洋訳
「メグレのパイプ」ジョルジュ・シムノン 平岡敦訳
「戦術の演習」イーヴリン・ウォー 大庭忠男訳
「九マイルは遠すぎる」ハリイ・ケメルマン 永井淳
「緋の接吻(せっぷん)」E・S・ガードナー 池央耿訳
「五十一番目の密室またはMWAの殺人」ロバート・アーサー 深町眞理子
「死者の靴」マイケル・イネス 大久保康雄訳