新・三つの棺-「幻影の書庫」日記

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読まずにいられぬ名短篇

書き巧者は読み巧者。
おそらくそれは真実だろうと思う。
 
本書はミステリ界でも指折りの書き巧者の二人が選んだアンソロジーなので、
やはり印象に残る短編ばかりが選ばれていて、納得の出来映え。
これってシリーズだったのか。ミステリの合間にたまに挟んで読んでみようかな。
 
恒例のベスト3選びは、ちょっと趣向を変えて。
 
まずは内容よりも文体を重きにおいて一作選出。
熱に浮かされたような田中小実昌「からっぽ」、
淡々とした語り口が説得力を持つ尾崎士郎「蜜柑の皮」も良かったが、
ベストは文中世界へ引きずり込まれて凍えるジャック・ロンドン「焚き火」としよう。
 
続いてはやはり内容の面から一作。
素敵なファンタジー感の江國香織「デューク」も好きだし、
時間物などのSFの趣を持つ山本周五郎「その木戸を通って」も興味深い。
一発落雷のようなクレイグ・ライス「馬をのみこんだ男」もいいが、
やはりベストは対談で触れられてるように、これだけのツイストを想起させずに、
話に引きずり込む、短編のお手本のようなヘンリィー・スレッサー「処刑の日」としたい。
 
最後は本書全体の中でもベストを。
松本清張「張込み」から倉本聡の捕物帖二作に至るラストが、
間違いなく本書の白眉だろう。
清張作品を捕物帖に翻案したドラマがあったなんてことも初耳だったが、
そのアレンジ具合や質の高さもとってもいい感じ。
特に「若狭 宮津浜」はラストも絶妙で、迷わず本書のベストに選出。
 
ところでさすがに「点と線」は捕物帖にはなってないだろうなぁ。