時計屋探偵の冒険 アリバイ崩し承ります 2
冒頭の「沈める車のアリバイ」が大山誠一郎とはとても思えないほどの
単純すぎる代物で(だって本格ミステリにおける溺死の過半数はこれだよな)
いきなりの劣化かと冷や冷やさせられたが、以降は存分に大山誠一郎だった。
もしやこれなら他のも解けるかもと読者に思わせるための練習問題という高等戦術か?
「多すぎる証人のアリバイ」は本格王にも選ばれている傑作。
元々フーダニットは犠牲になるアリバイ崩し物だけど、ハウダニットとしても秀逸な上に、
秀逸なホワイダニットまでも魅せてくれるのだから、感嘆する他は無い。
「一族のアリバイ」は崩されることで成立するアリバイという発想がお見事。
単純にハウダニットというわけではなく、こうして構成にも工夫を魅せてくれるのに痺れる。
そこからまた「二律背反のアリバイ」という構成に繋がっていくのも、もうたまらん。
発表自体は1年4ヶ月も空いてるようだが、こういう一冊の並びになる妙にぞくぞくさせられる。
書き下ろしの「夏休みのアリバイ」もボーナストラックとは思えないくらい、
シンプルな原理ながら、見事に決まった好編。
アリバイ崩しという、一点のハウダニットに特化した作品集ながら、
二冊目に於いても前作を越える発想のバリエーションで、たっぷりと堪能させられる。
希代の本格ミステリ職人、大山誠一郎。これは8点としたい。