新・三つの棺-「幻影の書庫」日記

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Ark アーク ベスト・オブ・ケン・リュウ

 
新書版の「紙の動物園」一作しか読んだことの無かった作家だが、
改めてこの傑作集で読んでも、ほぼ同じ感想を抱いてしまった。
 
その感想で書いたように、「比較的ありがちなSFの種を使って、センチメンタルな作品を紡ぐ」
というのが、やはりケン・リュウ作品なのだと、再認識してしまった。
 
センチメンタリズムとオリエンタリズム
たとえば「草を結びて環を銜えん」なんて、既にSFですらなく、
この二つの要素だけで紡がれた作品とすら思えてしまう。
ただ、この作品として紡ぎ上げる力は半端無いので、
結果的には凄くいい作品になってはいるんだけど。
 
そういう意味で、SFとして凄く読みたいかというと、
そうでもないなぁと思ってしまうのも事実。
センチメンタリズムが根本的に大好きな自分であっても、さえ。
やっぱSFはそのアイデアとか、センス・オブ・ワンダーを味わいたいんだよなぁ。
 
そう言いながらもベストは「母の記憶に」で。
浦島効果をセンチメンタリズムだけで描いた作品なんだけどね。
第二位は「良い狩りを」で。上記でもベストに選んでるけれど、
本書中でもやはり最もセンス・オブ・ワンダーを感じる作品。
第三位はセンチメンタリズムから云えば、「紙の動物園」とか
もののあはれ」になるんだろうけど、それらを押し除けて、
本書中最もアイデアが光る「結縄」を選んでみることにしよう。