- 作者: 法月綸太郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2019/09/12
- メディア: 単行本
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都筑道夫「退職刑事」シリーズを強く意識した安楽椅子探偵物2篇を、
評論をディスカッション形式で小説化したような2篇で挟んだ短編集。
中間の小説2篇はいずれも非常に高品質。
複雑すぎではあるものの、構図の描き方が実に凄い。
「都市伝説パズル」ほどのシンプルさはないが、
構図の完成度からいえば、「あべこべの遺書」の方が上。
しかしながら、ホワイダニットのアクロバットも披露される
「殺さぬ先の自首」の方を自分としてはベストに推したい。
ちょっとずるい気はしてしまう評論もどきの2篇だが、
その中で比較すれば、圧倒的に「カーテンコール」の方が良い。
ドイルの「白面のたてがみ」は、物語自体よりも物語の外側の話だし、
そもそも描きたい結論が超自然なものなので、
たとえ説得させられたにしても(全然説得されはしなかったが)
結局は「だから何?」と思ってしまうような気がする。
「カーテンコール」は物語自体を完全にひっくり返し、
クリスティのほくそ笑む顔すら見えてくるもので、
描きたい結論自体の面白みが強い。
しかもそれなりの説得力で描かれているようにも感じられた。
クリスティだったら、たしかにこの企みを墓場まで持って行きそう。
しかも一応、小説化する意味を持たせる仕掛けまで
組み込んであるのだから、これはいわば裏ベストかな。
小説編の完成度が非常に高く(ど本格者向けに限定されるかもしれないけど)、
「カーテンコール」も堪能してしまったので、採点は8点にしちゃおう。