新本格30周年記念アンソロジー。
これだけ豪華な執筆陣の競作ということで、
皆明らかに気合いの入った力作ばかり。
滅多に無いくらいの良質のアンソロジーになってる。
また、テーマが「名探偵」というのが、この作家陣を
二派に明確に分けてしまう結果になってるのが非常に興味深い。
シリーズ探偵という大きな大動脈を持った作家と、
そこまで太い血管を持ち合わせていない作家。
シリーズ探偵持ちの作家は、何ら迷うことなく、
それぞれの持ち味を活かした、しかも力作を易々とものにしている。
麻耶・有栖川・法月の三人がその一派。
どちらかと云えば後者かもしれない山口雅也も、
今回は最近集中して書いている落語物を選んでこの派閥入り。
残りの三人(歌野・我孫子・綾辻)に関しては、まずこの「名探偵」という課題を
どう料理するかで、大いに悩んだのだろう。
二人が似たような着想に流れてしまってるのも、このご時世では納得できるところ。
残る綾辻は本来は前者でもいいはずなのだが、館シリーズは全十作縛りで、
短編と云えども描かないポリシーらしく、そのせいで大悩みした挙げ句、
本作品集としては異質な、フェイク・ドキュメンタリーみたいな妙ちくりんな作品に
なってしまってる(こんな出来過ぎな事実があったら、とっくに有名な話になってるわな)。
別の意味で面白くはあるけど、本作としてはワーストの烙印が押されるだろう。
結果的に出来が良いのは、圧倒的にのびのびと書けた前者の作家達。
ベストは迷わず有栖川有栖「船長が死んだ夜」。
WHYから展開される論理のアクロバットがとにかく秀逸。
氏の全短編の中でも、間違いなく上位の部類に入るだろう名品。
第二位は麻耶雄嵩「水曜日と金曜日が嫌い」。
何も無い空中からカードを取り出すような、真相のアクロバットが凄い。
第三位は法月綸太郎「あべこべの遺書」。
「都市伝説パズル」などの傑作を思い起こさせる、構図のアクロバットが見事だ。
採点は文句なく8点。短編集・アンソロジーとしては昨年のベスト作品。