新・三つの棺-「幻影の書庫」日記

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超短編! 大どんでん返し Special

 
どこぞの知らないライターが適当にでっち上げたようなものとは違って、
真っ当な作家陣が名を連ねた作品集で、それぞれにアイデアが凝らされており、
及第点以上ばかりが集まった作品集だと思う。
 
ただ、2000字ってのが少なすぎるのかなぁ。
ショートショートの痛快さに「やれたぁ~」ってなる作品は少なかったような。
タイトルがコンセプトを表しているように、ショートショートというより、
短編の超短い奴ぅ~~、ってな感じなのかなぁ。
 
「大どんでん返し Special」と銘打たれてるわけなので、
もうちょっとは、どかんとした意外性を味わいたかったなと。
 
順不同でベスト5を選んでみるならば、
・恋に落ちたら(一穂ミチ
・訪ねてきた女(竹本健治
・井村健吾の話(澤村伊智)
・昼下がり、行きつけのカフェにて(結城真一郎)
・美味しいラーメンの作り方(七尾与史)
かな。
 
このうちベストは、この手法の可能性を感じた結城真一郎かな。
 
あと5作選んで、自分のベスト10とするならば、
・イズカからユウトへ(浅倉秋成)
・矜持(小川哲)
・契約書の謎(柚月裕子
・はじめてのサイン会(綾崎隼
・二十三時、タクシーは西麻布へ(麻布競馬場)
ってところで。
 
全体的に悪くはないんだけど、「大どんでん返し」とするには
やはり弱いとしか思えなかったので、採点は6点止まりかな。
 

アミュレット・ホテル

警察の介入が一切なく、偽造パスポートでもグレネードランチャーでもルームサービスでお届け可能な犯罪者御用達ホテル。そこでは守るべき2つのルールが存在する。①ホテルに損害を与えない。②ホテルの敷地内で障害・殺人事件を起こさない。そんな絶対的なルールが破られる時、ホテル探偵が独自の捜査で犯人を追い詰める。

 
本格ミステリとしての精度が非常に高い作品集。
 
彼女にしては特殊設定は非常に緩いものではあるけれど、
その分、純粋に本格としての作り込みが割り増しされている印象。
作者の本格力をまざまざと魅せ付けてくれる好編になった。
 
ベストはやはり最初の表題作だろう。
本格としての攻め手が実に豊か。
複層のミスリードで読者を翻弄し、ロジックで導く。
密室物は動機がおざなりになることが多いものだけど、
そこにも意表を突く回答が用意されている。
短編とは思えないくらいの盛り込み具合が素晴らしい。
 
次点は「タイタンの殺人」かな。
ハウが解かれることで、潜んでいたホワイも同時に解き明かされる。
 
残りの二作品も間違いなく秀作。
 
これだけの秀逸な短編が揃ったら、文句なく採点は8点。
 

推理の時間です

あなたにはこの謎が解けるか――。
法月綸太郎と方丈貴恵がフーダニットで、我孫子武丸田中啓文ホワイダニットで、北山猛邦と伊吹亜門がハウダニットで、読者皆様に挑戦します。

 
三分野で六人の推理作家による「読者への挑戦状」対決!
互いの問題を推理し合うという「推理編」の趣向が秀逸だった。
ちなみにスーパーバイザーのノリリンは全部に挑戦(結構豪快に外してたりしてて乙)。
 
タイマン勝負の形式になってるので、いつものベスト3ではなく、
それぞれの分野で勝者を選ぶ形にしようと思う。
 
フーダニット編では、ちょっと難度は高すぎるけれど、
王道の犯人当ての方丈貴恵の勝利。推理編の緻密度も良かった。
ノリリンは若干簡単すぎたのと、本人の反省にもあるように、
出題意図とは真逆の動機が成立してしまうのは、やはり疵かと思う。
 
ホワイダニット編は、やはり挑戦状形式には向かないというのを
改めて示したような形になってしまったと思う。そりゃそうだよなぁ。
その中では推理で導けるようになんとか頑張った我孫子武丸の圧勝。
 
ハウダニット編はいずれも秀作で、三分野の中で最も充実したパートになった。
ハウとしてはこちらが上だと思うし、ハウの中に別の謎をも内包した北山猛邦
非常に良かったんだけど、更にそれに加えて思い及ばぬようなホワイをも
炸裂させてくれた伊吹亜門の方を勝者としたい。本書全体でもこれがベスト。
 
こういう形式で、推理編もあってと、この趣向だけでも8点進呈!
 

ラザロの迷宮

 
なるほど、こういうやり方か。
 
以下の感想ですが、勿論、明確には書かないですけど、
勘の良い方には、充分読めてしまう部分があるかもしれません。
これから読もうと思っていらっしゃる方は、
以下は読まずに本書に向かわれた方が良いと忠告させていただきます。
 
本書の基本的な構造は、実は作者の発明ではない。
ミステリ映画好きであれば、観たことがある人も多いだろう
初心者向けミステリ講座(映像編)にも選んでいる「アイデンティティ」である。
 
ある意味、結構そのままと言ってもいいくらいの相似形。
犯人の設定まで含めて。
 
それなのに、なかなかそうとは気付かせない。
それはきっとあらかじめミスリードが仕込まれているから。
 
あからさまかどうか逡巡するくらいに仕込まれたコレが上手く機能して、
その先への読者の思考を遮断する役割を果たしているんじゃないかと思う。
 
だからこそ、P377の逆転の一言が、どんでん返しとして響くのだ。
 
このやり方が上手かった。更にここにとどまらず、
最後のどんでん返しまでバッチリと決めてくれたおかげで、
パクりとは言えないオリジナリティを充分生み出すことに成功している。
 
なかなか見事なお手並みだろう。採点は8点とする。
 

本格王2023


初めてかもしれない。いや多分初めてだろうな。
これを推したいって作品が一っつも無かった。
 
正直今回はベスト3は「該当無し」にしたい。
そういう作品名があるわけではなくて、
ホントに選びたいものが無いって意味合いで。
 
年間ベスト本でこれは無いだろうってことを考えると、
初めて(だと思うけど)採点は5点とする。
 
まぁこれで感想放棄するのもなんなので、
一応はベター3ということで選んでおくことにはしよう。
 
ベターな中でのベストは道尾秀介ハリガネムシ」。
文章だけで真相が充分にわかってしまうところがイマイチだけど、
文章ではなく音声にすることに意味を持たせるアイデアは上手い。
 
次は結城真一郎「転んでもただでは起きないふわ玉豆苗スープ事件」。
一応犯人指摘の根拠が一番ちゃんとしてた。
 
最後はあまりにも奇妙なシチュエーションを作り込みすぎてて、
ロジックのスッキリ感を失ってるけど、白井智之「モーティリアンの手首」で。