新・三つの棺-「幻影の書庫」日記

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密室殺人

密室殺人 (論創海外ミステリ)

密室殺人 (論創海外ミステリ)

 
「警官の騎士道」という作品が出てたのは気付いてなかったが、
それまでの「甘い毒」「警官の証言」は既読で、
自分の感想を読み返してみると、高い評価を与えている。
 
精度はクイーンほどではないとはいえ、全ての作品に
読者への挑戦状が付けられた”ド本格”ってところに、
強い共感を抱いてたようだ。
ただ、いずれも地味な印象が拭えなかったところ。
 
本作もやはりその例に漏れず、
読者への挑戦状からの、図解によるトリック説明のあたりは
”ド本格”の、この”ド”っぷりをまざまざと感じることが出来る。
 
でも、やっぱり全体通しての印象は地味。
 
殺人が起こるまでが、やはり長過ぎるかなぁ。
そこまでの展開としては、古めかしさは否めないので。
 
直球過ぎる題名を付ける自信の現れで、密室トリックはさすがのもの。
床の傷とある人物の特徴から、こういうトリックだなと、
勝手に思い込んでた自分の考えの遙か上を行ってくれたので満足。
 
ただハウダニットの比重が重くなりすぎたためか、
個人的には既読の二作の方が好みだったんじゃないかと思う。
(全く記憶に残ってないので、自分の感想の熱さから判断)
 
採点は7点。

島のこんちは

昨日は510円以下の本かCDが無料という、太っ腹な店舗限定アプリクーポンを使用するために、新百合まで歩きing。108円の本無料クーポンと合わせて使用。さすがにこれだけではあまりにも申し訳ないので、高めの本も一冊購入。

1.は樹林伸原作なので、そこそこはミステリしてんじゃないかという薄い期待で。出たばかりの2.が無料で手に入るなんて、なんと嬉しいこと。それに最初の作品の舞台は2016年のようだ。40年振りの前作はまだ古い時代の話だったが、ついにエドガーと同時代に生きることが出来るんだね。3.は普通ならこんな値段では買わないんだけど、太っ腹へのお礼の意味も込めて。これで一気に現時点まで読み上げちゃおう。

金時計

金時計 (名探偵オーウェン・バーンズ)

金時計 (名探偵オーウェン・バーンズ)

 
なんと本書はアルテの五年ぶりの新作なんだそうだ。
同時代的とはとても思えないクラシカルな作風だけど、書かれたばかりの作品。
しかも日本先行発売で、本国よりも先に読めちゃうなんて。
今まで聞いたこともなかった出版社なのに、なぜにこんなことまで出来ちゃうのか。
 
それに今までのアルテとは、ひと味違う作品だぞ。
ファンタジー要素をモチーフだけではなく、作品自体に組み込んでくるだなんて。
 
本書は二つの時代を交互に描く。1911年と1991年。
こういう場合、例外は皆無と云ってもいいほど、
名探偵は「現在」パートにいて、「過去」の事件の因縁が絡んでくるものだが、
本書の探偵であるオーウェン・バーンズがいるのは1911年。
 
しかもその二つのパートで描かれる話には全く共通性が感じられない。
幾つかの共通のモチーフが現れてはくるのだけど。
 
それが本当の意味でどう呼応するのか、結末に至るまで読者は途方に暮れたままかも。
自分はそうだった。
両方のパート(特に現在編)の行き着く先も、おそらく読者の予想を超える。
 
そして、そして、最後に明かされる雪の足跡トリック。
ほぼほぼ手を加えようもないような状況にもかかわらず、
まさかこんな詭計が成立していようとは。
 
怪作にして快作。こんな現代作品が読めるなんて、なんと快哉
 
採点は悩まずの8点。本年度の海外物ベストはこれで決まりかなぁ。

若おかみは小学生!

TSUTAYAの準新作・旧作百円クーポンにて鑑賞。

 
評判通り、老若男女の皆に薦められるような作品だった。
 
原作は娘が小学生の時によく読んでいたが、自分は全くの未読。
なので、原作との比較はできないが、全20作の原作と、
94分で完結させようとしている映画では、
あまり比較する意味は無いような気もしてしまうな。
 
そう言いながらちょっと調べてみたんだけど、
本作の最後のエピソードは原作には無いもののようだ。
 
多くの人の涙を誘うであろう、
このトラウマに直面し、それを乗り越えるシーンを描いていること、
これが本作を子供向けから、大人が見るべき作品として、
一つ拡がりを見せているところなのではないだろうか。
 
トラウマに向き合い、それを乗り越えること、
若おかみとして働くことの意義、
それら二つを結び合わせることのできた少女は、
もはや子供ではないのかもしれない。
 
そして、その最後の区切りとなるのがお神楽なのだろう。
 
原作は長期シリーズなので、もっと長く居座ることになるようだが、
映画として完結させるには、やはりこちらの方が納得させられる。

スキャナー 記憶のカケラをよむ男

TSUTAYAの準新作・旧作百円クーポンにて鑑賞。

 
古沢良太があまりにも良いので、旧作にも手を出してみた。
ミステリみたいだし、監督もデスノート前後編の金子修介だし。
 
ってな期待にも充分応えてくれる作品だった。
スリードを効かせて、意外性を感じられる作品。
 
まぁ、両氏のトップクラスの作品ではないだろうけど。
 
サイコホラーの話だし、暗く湿った要素の多い話を、
コメディ調に描こうとしているのだが、
野村萬斎のあまりにも独特な個性は、
軽快なコメディには向いてない。
コメディ調にしても、どこか重たく感じられる。
 
宮迫も冒頭のつかみが逆効果に思えて、
ぶれて感じられてしまったしなぁ。
(たまたま、この渦中の時期だし)
 
サイコホラーからの人情物展開で、
ちょっとファンタジーに寄りすぎになっちゃう、
事件の締めくくり方も賛否両論でそうな演出だったと思う。
 
ドラマではよく使われている手法ではあるけど、
ラストに一つ過去エピソードをぶち込んで、
ああ、なるほど、と思わせてくれるあたりは良かったなぁ。