新・三つの棺-「幻影の書庫」日記

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ワトソン力

ワトソン力

ワトソン力

  • 作者:大山誠一郎
  • 発売日: 2020/09/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 
どんな状況であっても”多重解決”の展開に持ち込むことの出来る、
このアイデアが素晴らしい。
 
これをこの作者が書くのだから、もう面白くならないはずがない。
本格ミステリのFormatと書き手が見事にマッチした幸福な例と言っていいだろう。
 
ただ、”多重解決”が成立すると云うことは、事件自体は比較的シンプルなものに
なりやすいという、痛し痒しなジレンマもあるように感じられた。
この作者ならではの、”構図の凄さ”ってのが、出し辛いかなぁと。
そんな制限の中でも、さすがの構図ってのも幾つか見られはしたけど。
 
ベストは「求婚者と毒殺者」にしたい。
ものすごくシンプルな毒殺事件なのに、多重解決自体を逆利用するような
本格ミステリ的企みが潜んでいて、本書随一の構図の描き方に思えた。
 
第二位は「本格王2019」にも選ばれてた「探偵台本」で。
多重解決がホップステップジャンプと段階を経て真相に到達するのが上手い。
きっちりと手がかりが貼られていて、納得感は本書でも随一。
 
第三位は「不運な犯人 」で。
ちょっと苦しめではあるけれど、構図の飛び具合は本書中随一。
 
8点と7点のちょうど線上という評価だけど、
昨年度はこれを逃したら他に付けようが無さそうなので、8点としよう。
不作の年だったと思うので、これがきっと自分の昨年度ベストだな。