- 作者: ホーカン・ネッセル,久山葉子
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2019/02/20
- メディア: 単行本
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三本の映画として公開される四作の短編(一本は二作品を統合したものになるようだ)に
書き下ろし短編「トム」を加えた作品集。
いずれも読み甲斐のある作品ではあるけれど、
『デュ・モーリアの騙りの妙、シーラッハの奥深さ』はともかく、
『ディーヴァーのどんでん返し』ってのは、さすがに違うなぁ。
これは残念ながら、帯の過剰宣伝文句に思える。
ディーヴァーはどんでん返すことに重きを置いてるので、
ギリギリまで引っ張って、引っ張って、どかんと落とす。
落とす効果重視なので、伏線にはさほどこだわりがない(ように思える)。
この作者の場合は、臆病なのか、とにかく丁寧に構成したい派なのか、
途中から真相につながるような要素(時には真相そのもの)を小出しに出してくる。
なので、どんでん返す時には、すでに読者の方では大方推測が付いている。
全体的な様式美にこそ、意味を見出す作家のように思える。
最終的には収まるべき型にきっちりとはまり込む、そんな短編集だった。
冒頭の「トム」なんて途中でどういうラストシーンになるかは丸わかりだもの。
ベストは「親愛なるアグネスへ」かなぁ。
意外性云々と云うより、ラストの描写の仕方が。
わかってる結末であっても、どう描くかで、印象がまるっきり違ってくる。
邦題を一番よく現しているシーンだとも思えたし。
ちょっと気になったのが「レイン ある作家の死」のミスリード。
作家側の方は形式通りなんだけど、主人公側で途中でほのめかされてた
ミスリードがそのまま宙ぶらりんになってしまったこと。
この作家の作風は、ディーヴァーのようにあざといミスリードはしない、
ほのめかされているなら、それはそのまま真相に直結する、かと思ったのにな。
本格性とか、意外性とかを尊ぶ人向けではなく、
ミステリの趣を持つ短編をじっくりと味わいたい人向け。
なので、自分の採点としては7点止まり。