新・三つの棺-「幻影の書庫」日記

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鮎川哲也探偵小説選

「白の恐怖」はすっかり読んでないつもりになっていたが、8年前に読んでたんだった。
すっかり忘れてて、新鮮に驚けるんだから、鳥頭もまんざら悪いもんじゃないけど。
 
以前の感想に書いたことだけど、氏自身のオールタイムベスト級の短編ミステリ
(「達也が嗤う」だとか「薔薇荘殺人事件」だとか)を、そのまま長編に置き換えたような作品。
 
ただ、細部まで徹底的に練り込まれた「リラ荘事件」などとは違い、
大元の発想が幹をなしてるだけで、細部の詰めが無い。
思い付きを勢いだけで取りあえず形にしてみた、第一稿のような荒さを感じる。
 
このパワフルな幹に枝や葉がきっちりと実っていれば、凄い作品になってただろうから、
晩年のライフワーク的に、リライトに取り組まれてたのも理解しやすい。
完成された「白樺荘事件」を本当に読んでみたかったなぁ。
 
そして、ついに公開された未刊の白樺荘だけど、前半の人集めのところが
分厚く描かれているだけで、ようやくミステリ部分に突入した途端に、
中断となってるもんだから、肝心の構想が全く見えないのが残念。
真相のネタの難易度も更に上がってそうなんだけど、これまでのところでは
そこにどういう伏線が用意されようとしてたのかも、わからずじまいだったなぁ。
 
このカップリング以外の作品では、「探偵絵物語」の掌編集が、
一編一編に意外性が演出されてて、非常に興味深く読むことが出来た。
特に「アドバルーン殺人事件」は子どもの頃によく読んでいた、
藤原宰太郎とかのミステリクイズ本などで何度も読んでたトリックで、
ここに元ネタがあったのかと知ることが出来たのも、思わぬ収穫。
 
そういうちょっとしたボーナスの加算点もあり〜ので、
「白の恐怖」「白樺荘事件」のカップリング収録という、
多くのミステリファンの夢を具現化してくれた作品集としては、
もう間違いなく年間ベストの9点とさせていただきたい。