新・三つの棺-「幻影の書庫」日記

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know

know (ハヤカワ文庫JA)

know (ハヤカワ文庫JA)

野崎まどは人智を越えた存在を設定するのが実に上手い。
(表現するのが上手い、という言い回しにしてないのは敢えて)
 
デビューの快作(怪作?)から、ほぼ一貫してそういう存在を
作中の一番のテーマとして描き続けている。
 
ラノベレーベルから初めて一般レーベル(しかもハヤカワ)に
進出した本作でも、その持ち味は遺憾なく発揮されている。
イーガン以降のSF界においては、新規性こそ高くはないものの、
充分な深度のSF作品として見事に結実させてみせた。
 
日本SF大賞の候補作にも選ばれたことからも、
充分に認められたと言っても全く差し支えあるまい。
 
とぼけた(ひとによっては”ふざけた”と受け取られかねない)台詞回しも
極力抑えた筆致になっていて、一般の鑑賞にも耐えるはず。
 
最後の対決シーンが、単語の羅列ばかりで、読者にビジョンを
仮想させてくれないのが、自分としては物足り無さを感じたところ。
(自分の想像力が乏しいだけかもしれないが)
 
だけど、最後の一行はとても良い。
ビジョンが一瞬で拡がる、見事な Finishing Stroke(最後の一撃)。
 
本格SFとしても期待値を充分に乗り越えてくれた作品。
やはり目を離せない作者のようだ。