新・三つの棺-「幻影の書庫」日記

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インターネットで選ぶ本格ミステリ大賞2006

いよいよ明日12日に、本格ミステリ大賞の開票が行われる。今年は「容疑者X」論争の影響を受けて、投票者の本格観が問われる(かもしれない)投票と云うことで、より一層の注目を浴びる結果となることだろう。
さて、ネット界を浮遊するミステリ者にとっては、もう一つの本格ミステリ大賞も見逃せないイベントなのではないだろうか。政宗九さん主催の「インターネットで選ぶ本格ミステリ大賞」である。投票者が少なめなのが残念なところだが、過去の授賞歴を見ると、芦辺拓『グラン・ギニョール城』、西澤保彦『聯愁殺』、谺健二『赫い月照』、芦辺拓紅楼夢の殺人』と、むしろ本家よりもより本格として先鋭化された作品が選ばれる傾向にあると言えるのではないか。
今年、始めて私も投票に参加してみた。昨日で投票〆切が過ぎたので、ここに私の投票内容を公開しておこう。
 
1. 投票作品名 
  摩天楼の怪人
2. 理由、およびコメント
・『向日葵の咲かない夏』
今年の若者枠。乙一と同じ匂いがする、無邪気系ホラーと本格ミステリとの融合。投票者個々の本格感が反映されるような試金石を選ぶという、今年の選考会の性格が反映された作品。ユニーク性が評価されたのはうなづけるが、”本格”としての票を集めるにはロジック分が不足していると思う。
・『ゴーレムの檻』
今回はファンタジー世界が前提条件ではなく、リアルが基盤となる世界でも成立し得る作品が多かったのが残念。トリックメーカーとしての才は相変わらず凄いが、前作のような異世界ならではの異論理(前提が違うだけで極めてロジカルな)が欲しい。それに連作として完結しない短編集では、やはりインパクトに欠ける。
・『容疑者Xの献身』
一般的には今年の本命中の本命だろう。完璧な倒叙物でありながら、巧妙なトリックを用いて、”本格の愉悦”をももたらしてくれた。更に本作はトリック、動機、感動が密接に結びついているなど、一般の文芸ファンの心をも軽々と掴んだ秀作であった。しかしながら本格論議を産み出したように、完璧な本格とするには論理は弱い。
・『扉は閉ざされたまま』
ということで受賞の本命は本作としよう。倒叙物なのにロジカル。密室物なのに「扉は閉ざされたまま」 これだけの趣向をやり通しただけでも、拍手を送りたい。読者が全てを知っている倒叙物という枠内で、ロジックの端緒をどこから引き出すのか、その困難さも作家という立場だからこその評価を得られるのではないか。私自身の昨年度ベスト作品でもある。
・『摩天楼の怪人』
しかしながら私個人は本作こそ、この賞にふさわしいと信じる。幻想的な謎の論理的な解明。そのギャップの幻滅が島荘理論の弱点だと私は思ってきた(実際メインのトリック解明もこれに準じる) しかしまさか解明自体をもファンタジー化することで、ギャップのない美しさを”本格”にもたらしてくれるなんて。自己の理論を逸脱するほどの解明のファンタジックさが、新たな”本格”の方法論をも産み出してしまったかもしれない作品。ああ、本格はこんなにも美しいものだったのだよ。
3. オフィシャルの受賞作品予想
  扉は閉ざされたまま
ちなみに「インターネットで選ぶ本格ミステリ大賞2006」の予想は、ダントツで『扉』。さて、結果はどうだろうか?