新・三つの棺-「幻影の書庫」日記

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背律

原書房様からの頂き物。いつもありがとうございます。

背律

背律

冒頭に惹き付けられた。
ALSって言葉は知っていたが、こういう病気だったんだな。
自分の意識で動かせる随意筋のみが侵され、無意識に働く自律神経や五感は全く正常。
知性や意識が失われるというわけでもない。
痛みや苦しさからは逃れることは出来ないのに、それを発信する手段は奪われてしまうのだ。
たしかにこんな地獄は無いよね。こりゃたしかに延命措置は絶対に取って欲しくはないわな。
 
では、この自分では意識的に何も動かすことの出来ない状況の中で、
いったいどうやって自分の意志を伝えることが出来るのか。
 
これこそ、紛れもなく不可能犯罪的ハウダニットである。
(犯罪ではないので、”的”を付けるしかないのだけど)
 
ミステリである事件が二つ発生し、そのいずれもにいかにも推理小説的な
(そういう懐かしさを感じさせる)トリックが使われてはいるのだけど、
本書のキモはやはり上記のハウダニットだろう。
 
それ故、この謎が最初に提示され、その解決はほぼ最後に置かれている。
(隠された動機の推測という趣向が最後と言えば最後かもしれないので)
 
意識の檻という恐怖に戦慄した作品。採点は6点。
 
ところで題名の意味って、何なんだろ? 本編では触れられなかったような。
尊厳死という命題の提示はあるけれど、二律背反というわけでもないしな。