新・三つの棺-「幻影の書庫」日記

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アムステルダムの詭計

原書房様からの頂き物。いつもありがとうございます。

アムステルダムの詭計

アムステルダムの詭計

ばらのまち福山ミステリー文学新人賞の第8回受賞作品。
 
堅めの文章で淡々と出来事だけが綴られていく。
なんだかどこかの企業の社史みたい。
 
あまり関係の無い一般的な事象が延々と綴られていて、
そこに紛れ込むように、本書のストーリーがちりばめられる。
 
それに加えて、この語り手も事件に巻き込まれているわけじゃない。
関係者とはとても呼べない薄い関係で、主人公という感触が無い。
 
なんかストーリーに巻き込んではくれないなぁと感じたところで、
ようやく自分が誤読していたことに気がついた。
 
本書の本質は”歴史ミステリ”なんだ。
 
近現代が舞台なので、ついぞそういう認識を持っていなかった。
しかし、そう思って読めば、この乾いた感覚、一歩引いた立ち位置が
すんなりと理解出来てしまう。
 
アムステルダム運河殺人事件」「贋作シンジケート」
松本清張」「フェルメール
 
この四つの歴史的要素から謎を抽出し、大胆な仮説を提示し、
これら全てを結びつけていく。
 
それが歴史ミステリとしての本書の意味合いなんだと思う。
特に、この中で最も大胆で楽しい仮説がフェルメールだろうか。
これこそ紛れようもなく、正真正銘の歴史ミステリだしね。
 
ただ、歴史的事実を証拠とするような書き方ではなくて、
あくまで小説としての体裁で仕立てられているから、
私も誤読を誘われたように、ちょっと中途半端感は否めないかなぁ。
もっと歴史ミステリの文法の方に寄せて欲しかった。なので採点は6点。