新・三つの棺-「幻影の書庫」日記

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ドッグヴィル

TSUTAYAの誕生月半額クーポンにて鑑賞。

舞台劇とも見紛う、映画としての実験的手法に驚いた。わずかの舞台空間のみで淡々と描かれる三時間の重み。
テーマは多分に哲学的であるため、作り手の意図するレベルまではとても到達できそうもないが、単純に見ているだけでも心が痛む。
個人に起因する人間性の脆さと、集団に起因する意識の麻痺とが引き起こす、緩やかなカタストロフ。最後に訪れるカタストロフの方が、刹那的であるだけによっぽど爽やかとすら思えてしまう、人間性喪失という進行性の地獄。
それが決して狂気なんかではなく、自分の理解外の世界ではないことの恐ろしさ。自分だって堕ちるかもしれない。ほんのわずかなスパイラルであっても、それが一度下向きに転がり始めてしまえば、ここまで歪(いびつ)な世界を築き得るのだ。
 
「当たり前」が「怖い狂気」とすら思えてしまう、ディストピアのアンチ人間賛歌に戦慄せよ!