新・三つの棺-「幻影の書庫」日記

本格ミステリ書評サイト「幻影の書庫」の旧管理人のブログです。カテゴリー欄の全レビュー索引より、書評、映画評、漫画評、その他評の全一覧リストを見ることが出来ます。同じくカテゴリー欄の年間順位表より各年度の新刊ミステリの個人的ランキングを確認出来ます。

入れ子細工の夜

 
「透明人間は密室に潜む」に続く第二短編集。
 
今回もまた本格の魅力を多面的に見せてくれる作品集。
それぞれにどこかツイストも盛り込んでいて、
本格にこだわりの無い読者をも楽しませる仕様になっている。
 
全般的にはユーモラスさもアップして、より一般仕様になっている。
本格性も薄く拡がってる感じなので、個人的評価は前作の方が上。
 
ベストは心情的には「探偵~スルース~」オマージュの
表題作にしたいところだけど、最後の入れ子が余計に思えて、
なんか読後感がすっきり来なかったので、
ここはやはり怪作「二〇二一年度入試という題の推理小説」にしてみよう。
 
こういう形でバカミス(ある種のアンチミステリとも言えるかも)を仕掛けてくる、
イデアと形式とユーモア(特に大学側の作意解のしょぼさ)に脱帽。
 
採点は7点。
 

仕掛島

 
島荘理論、うふっ。
 
うん、久しぶりに島荘理論(*)を具現化した作品を読んだ気がするなぁ。
(*:幻想的な謎こそが全て、解明が多少無粋だったり、多少無理があったって、
 まぁそんなのいいやん、目ぇ、つぶってやぁ~、という理論。
 ⇒ 自己流でものすごく意図的に曲解してますが、本質こう考えてりゃいいんじゃね、
   と本気で思ったりはしてます)
 
まぁ仕掛島の仕掛島たる由縁のところは、
まぁそりゃ仕掛けてるよねぇ~、
たしかに『仕掛』だよねぇ~、
と奇想トリック好きとしては、微笑ましく受け容れられる。
 
それにもまして、この島荘理論だからね。
 
いやぁ、馬鹿馬鹿しくも微笑ましい。
(茶化してないです。本気で褒めてます!)
 
色んなところがピタリと綺麗に収まってるしね。
 
フーダニットとしては物足りない作品ではあるけれど、
散々待たされた甲斐のある作品にはなってたのではないかと。
 
採点は8点。
 

パラレル 多次元世界

昨年末、TSUTAYA西友町田店の百円クーポンにて鑑賞。

 
そう、こっちのタイトルの方がしっくり来る。
 
2作比較するなら、断然こちらの方が面白かった。
なにせ、これだからね。

混乱必至!考察好き必見!複雑で難解な世界に、あなたの頭脳はついてこられるか?!
時間のスピードが180倍違うパラレルワールドで、無限の可能性が暴走するー!!
野心と欲望を抱えてポータルを飛び越えた先にあるものはー!?仰天必至の衝撃ラストが待ち受ける!!

 
設定ルールをいかに活用するかって映画なわけなので、
ミステリファンとしての心も掴まれる。難解さはさほど無いけど。
 
肝心の時間のスピードの違いはあまり活かされてはいなかったな。
最初の開発期間短縮以外は。
自分自身から金盗んだりとか、せこいのも多いし。
クリエイティブな分野に目を付ける展開は良かったけどね。
 
衝撃ラストってのはミステリ的なツイストではなくて、
ホラーとしての衝撃だった。
 
最後の最後に意味不明なドンデン返しがあったりと、
余計なこともしてくれるので、鑑賞後感としては少し微妙に。
 

マルチバース

昨年末、TSUTAYA西友町田店の百円クーポンにて鑑賞。今回は二本のみ。

 
最近流行りのマルチバースって言葉には馴染み無く違和感を覚える。
やはりパラレルワールドって言った方がしっくりくるな。
 
今回借りた二本共が、『多次元世界から来た自分に取って代わられる』話だった。
勿論ものすごく乱暴に括ってるので、これだけでは特にネタバレにもならないと思う。
 
こちらの方がシリアス味の強い作品だった。
 
まぁだからこそ辻褄を合わせてきてくれるんだろうなという
期待があったんだけどな。
 
というのも、この話って結末が見えている話。
でも、どうしてそこに至るのかが理解出来ない。
そこに合理的な道筋を付けるのが、この映画なんだよねって思ってた。
 
そりゃ、ないよ。
多次元どうこうって話じゃないやん。
 
時制っ!!!
 
どうやら不条理映画だったらしい。
 

AKECHI 1巻

昨年のうちに書き上げてたストックで繋いでおこう。

現代版・明智小五郎事件簿。
 
普通メジャー作品を冒頭に据えるだろうと思うのに、
この1巻目で描くのが「兇器」「黒手組」ってのが逆に心惹かれた。
 
原作は読んだか読んでないかすら記憶に残ってないので、
原作との比較は出来ないのが残念。
 
解説を読むと、事件の本質である登場人物の人間関係や
トリックは、原作にかなり忠実とのこと。
 
その割には、そんなに違和感なく現代に舞台を移してるし、
ドローンなんかの現代ならではの技術すら取り込んでいる。
 
画も上手いし、乱歩作品の漫画化としては、
充分秀逸な出来映えなのではないだろうか。
 
全3巻だし(打ち切りってわけでもなさそうなんだけどね)
これは最後まで読む価値ありそうだな。