新・三つの棺-「幻影の書庫」日記

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リバース

原書房様からの頂き物。いつもありがとうございます。

”青春の痛み”というよりは”イタい青春物”であること、肝心のネタを一瞬で見透かされかねない不器用な伏線(「ほかしてください」のやりとり)など、「イニ・ラブ」との共通点は多いので、乾くるみの帯も納得。
しかしながらこの複層の物語構造と、それを巧みに覆い隠すようにミスリードで話を引っ張るやり口などは、むしろ道尾秀介のソレに近いのではないかと思わされた。巧妙さ、狡猾さに関しては若干引けを取るけれど。
とはいえ、これだけの構図を内に秘めながら、それを想起させない結構は立派な出来映え。本年度の本格ミステリの収穫の一つだろう。
個人的には上記の伏線と、強く印象に残っている先例のミステリ(WHYの観点だが)を思い浮かべていたせいで、比較的容易に最後の構図が見えてしまったのが残念だったけど。心地良く驚きたかったよ。
またミステリとしての補強の観点で言えば、主人公視点だけでなく他者の視点・心理描写を織り込むことで、もっとミスリードを完璧に仕上げることも可能だったのになぁ、とも思えた。せっかくの複層構造なんだから、こういう方向でも活かせたはず。決定的とも思える描写で、読者の心理の奥に置くことが出来たと思うんだよな。まぁ、これは私が本格偏愛派なせいであって、エンタメ路線の視点からはとんでもないことなんだろうけど。
ただ全般的にエンタメの観点からはどうなんだろう。主人公のイタさがあまりにもウェイトを占めている本書のくせに、終盤のイメージの逆転展開から爽やか風に締め括るのは”あり”ってことでいいのかな? いい話みたいに勘違いして終わりそうになるんだけど、それでホントにOK?
でも、題名の意味がそこに浮かび上がる趣向はとっても悦。これまたある意味ミスリードだったりもするアタリが憎たらしいわん。ていうか、まさかそのための乾くるみではあるまいな?