新・三つの棺-「幻影の書庫」日記

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「盗まれた手紙」実践編(仮)

事件はなにげない日常の謎から始まった。
 
図書館から借りていた「騙し絵」が消失してしまったのだ。
 
勿論六人の探偵が見守る中から消え失せたわけではない。
家に持って帰ってブックカバーを外したのは覚えている。きっと家の中にあるはず。
 
読み終えた図書館本を置く本の棚はいつも決まっている。その付近にきっとあるはず。だがない。
積み本や読んでる途中の本を入れてる棚の中に紛れ込んでいないか。散々見てみたがない。
床に落ちて紙ゴミを入れていた袋の中に紛れ込んでいないか。いや紙ゴミ袋は撤去していた。
記憶は間違いで、どこかの鞄やエコバッグの中に入りっぱなしじゃないか。ことごとく調べたがない。
会社に置き忘れてはいないか。探してみたがない。
 
消えてしまってもう一週間どころじゃない時が流れた。
あきらめて新しい本を買って返します、とかみさんに言って貰おうかと思った昨日。
 
はっと頭の中に電光が走って、本棚に目をやった。
書斎の椅子から真横を向いたほんの目の前。
読み終えた購入文庫本を並べてた棚。
「サム・ホーソーン」や「時の娘」や「秋期限定」などと一緒に、完璧に一切の違和感なく並んでいたよ。いかにも自分の本のように。
 
これを「盗まれた手紙」のようだと書いたら、ポオ大先生に怒られるだろうか。
そんなとこ真っ先に調べるんじゃないの、という突っ込みの声があちこちから聞こえてきそうだ。
 
事件は「日常の謎」でもなんでもなかった。
ただ、そこにとんでもない”うっかり野郎”がいただけのことだ。
 
まぁ、自分のうっかりに自分でも驚くことはよくある。
中でも一番「それはありえんやろっ!」と自分自身に突っ込んだといえば、シャーペンがなくなって身近のあちこちを散々調べ回った挙げ句、「無い」と独り言を言おうとして初めて、口にくわえていたことに気が付いたときかなぁ〜。