貫井徳郎『不等辺五角形』についての、自分なりの仮説を書いておく。
完全ネタバレですので、未読の方は閲覧されませぬよう、ご注意ください。
念のため、10行ほど空けておきます。
さて、最後の独白における「あの人」が誰を指しているのかについては、
紛れの要素はなく、「夏澄」で間違いないだろう。
LGBTについてあれだけ描かれているのは、このための必然性だろうし、
「私を助けてくれたとき」が、リュックから巨大蜘蛛を
払い落としたエピソードを指しているのは明白だ。
そこまでは確定なのだが、問題は現場の「部屋」の話である。
最後に夏澄と雛乃の喧嘩が行われた場所は、
雛乃が被害者になる以上、雛乃の部屋でなければならない。
ところが、夏澄の証言では、それが夏澄の部屋となっている。
主導権を握られないために自分の部屋に移動させた、
と明確に証言している以上、これは記憶の曖昧さでは説明がつかない。
ということは、
夏澄は自分が殺してしまったという事実を自覚していて、
梨愛の純愛に乗っかっているのだろうか。
だが、だとしたら、この喧嘩の話など黙っていれば済むだけの話だ。
わざわざ自分から言い出す必要はないだろう。
これらの矛盾が、どうにも解釈しにくい謎になっているのだ。
なので、ここで一応、自分なりの解釈(仮説)を書いておく。
重成とのデートに友だちを連れて行く雛乃の奇妙な思考と同様、
これもまた、夏澄の複雑な思考回路の結果なのだと。
彼女は、自分が誤って殺してしまったであろうことを自覚している。
しかし、自分から自首するほどには振り切ることができていない。
ただし、誰かがそれを暴くのであれば、受け容れる覚悟はできている。
だから彼女は、二方向へのアプローチを試みた。
梨愛に対しては、
「私たちの誰かが傷ついてもいいから本当のことを言ってくれ」
という言付けを弁護士に託すことで、
真実を話すための“許し”と“きっかけ”を与えている。
そしてもう一つ、
弁護士に対しては、ロジックによる解決への道筋を。
それが、やや唐突に思えた「壁越しに聞こえるか」という実験の提案だ。
最後の梨愛の独白にあるように、壁越しに声は聞こえるのだ。
実験すれば、それは容易に確認できることだろう。
では、そこから何が導き出せるのか。
証言通り、夏澄の部屋で最後の喧嘩が行われていたとしたら、
隣の部屋にいた重成に聞こえていたはずではないか。
(部屋割りは、重成/夏澄/雛乃/梨愛の順)
……というところから、
提案通りの実験を行えば、ロジカルに夏澄の嘘へ辿り着けるように、
敢えて、真実とは異なる「部屋」の話をしたのだと考える。
どちらかの方向からでもいい、
誰かが自分に辿り着いてくれないかと。
そして前者――梨愛の側からは、真実へ向かうことはない。
梨愛の独白から、それだけは間違いない。
だから……
弁護士、ガンバレ!!!