レオ・ブルース短編全集
本当の意味での短編全集なんだ。
世界初紹介の未発表草稿10編を含む 著者の遺した全短編40本を完全網羅したもの。
ただ、著者の長編に於ける本格性を期待してはいけない。
本書の約3/4を占める短編は英国の新聞『イヴニング・スタンダード』誌に掲載されたもの。
それらを収録した原著の解説にあるように、
「これらの短編に作家が執筆した当時に成し遂げた以上のものを望むのはばかげている。
これらは日刊新聞のために書かれ、その目的は束の間の気晴らしである。」
と、あらかじめハードルを下げた状態で読むべき作品群である。
もっと氏の本格をぎゅうっ~と凝縮したような短編が埋もれてはないかと
密かな期待はあったんだけど、そういう作品は正直皆無だった。
ちょっとしたトリック一つを入れ込んだ作品もあるけれど、
どっちかというと語り口の洒落た作品、味のある皮肉で読ませる作品、
そういう作品が多く、そういった作品の方に秀作が多かったように思う。
40本と数は多いので(そのほぼ全てが掌編なので)、
今回はベスト5を選出してみよう。
ベストはやはり本書中最もボリュームがあって、
本格性も高い「ビーフのクリスマス」だな。
残りの2位から5位は新聞掲載作から、順不同で。
いずれも語り口と皮肉味がピリリと利いた作品達。
「ビーフと蜘蛛」「犯行現場にて」
「具合の悪い時」「カプセルの箱」
次点として、世界初紹介の作品から
「われわれは愉快ではない」で。
作品自体よりも、こういう完全版であることを評価しての8点。