記憶の中の誘拐 赤い博物館
さすが大山誠一郎と思わせてくれる作品集。
一生付いていくつもりではあるが、それにしてもこのアベレージは驚異的。
いったいどんな発想の泉を持っているのか。
本作だって、意外に着想の核はシンプルだったりもするんだけど、
その企みを見抜ける読者はおそらく非常に少数だろうと思うものばかり。
犯人はきっとこの人とか思えても、その構図を正しく読み取るのは相当に困難だと思う。
ただその中では「時計屋探偵の冒険 アリバイ崩し承ります 2」同様、
冒頭の「夕暮れの屋上で」はわかりやすすぎたかな。
ベストはやはり表題作「記憶の中の誘拐」だろうな。
小さいものから、大きいものまで、様々なホワイダニットが、
まさかとも思える構図を炙り出していく驚き。これは傑作。
五作品しかないので、ベスト3ではなく、次点選びとしよう。
「死を十で割る」は要点が絞られたホワイダニットの妙、
「孤独な容疑者」は読者を困惑させるホワットダニットの妙。
いずれもシンプルなのに、なかなか読めない見事な作品なんだけど、
ここまで手がかりを与えられてさえ、まさかの構図に驚かされる
「連火」を選ぶことにしよう。
採点は8点。時計屋と同じ年に重なるとは。
悩みどころではあるが、ハウダニット特化よりも、
ホワイや構図のバリエーションが愉しめるこちらに軍配かな。
というわけで、今年度の国内既読作品が五作品に達したので、
明日は今年のランキング表を掲載することにしよう。