新・三つの棺-「幻影の書庫」日記

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メルカトル悪人狩り

読み終えたのは昨年中なんだけど、感想が遅くなってしまった。

 
メルの短編集といえば、前二作「メルカトルと美袋のための殺人」
「メルカトルかく語りき」ともに、私はほぼ史上最上級の9点を付けている。
自分のオール・タイム・ベストを選出する際には、是非とも考慮すべき作品という位置づけ。
 
最初の作品集の全ての作品の圧倒的なレベルの高さ。
そして前作。彼にしか書けない超絶作品。
中でも神がかり的極致に達した「収束」といったら……
 
その二作に比較すると、本作は弱い。
ある意味、普通の本格ミステリ短編集になっている印象。
 
ただ、読んでいて、ざわつきを感じる。
2011年に書かれた「囁くもの」
 
これがプロローグであったのか、あるいはこれが予言の書でもあったのか、
そこから続く三作品。19年、20年に続けざまに書かれている
「メルカトル・ナイト」「天女五衰」「メルカトル式捜査法」
読み進む中で、ざわつき、ざわめきが徐々に高まり、最終作では大音響で響き渡る。
 
やはり麻耶雄嵩はこんな作品を書いてしまうのだ!
 
超絶問題作ではあるけれど、これも極北。
真正面では無いけれど、本格ミステリ世界のどこかの方向の果て。
まぎれようもなく本書の白眉は、この「メルカトル式捜査法」で間違いない。
 
第二位は何も無い空中からカードを取り出すような、
真相のアクロバットが凄い「水曜日と金曜日が嫌い」。
第三位は最終作に繋がるきっかけを作った意味合いも含めて「囁くもの」で。
 
全体のレベル感は、前二作に大きく引けを取るので、採点は8点。
順位としては置きようのない作品なんだけど、トップに置くのははばかれる。
いずれも美点が感じられる長編三作に敬意を表して、4位に置いとくかな。