手塚治虫名作集 3 百物語
表題作の他、「安達が原」「荒野の七ひき」「ロロの旅路」の4編を収録。
いずれも沁みる傑作揃い。
これまで読んだ、このシリーズの短編集の中では、本書が一番好きだな。
この巻のテーマは、タイトルや内容が他の作品を下敷きにしたもの、だろうか。
表題作はゲーテの「ファウスト」を下敷きにした作品のようだ。
時代劇の主人公なのに「一塁」という名前が不自然で気になったが、
「ファウスト->ファースト」という連想からだそうな。
改名後の「不破臼人」はもろファウストだったんだな。
その元ネタのあらすじを知らないので、Wikipedia見てみたが、
なるほど見事に時代劇に取り込んでるのだな。
ただ、それを知らなくて読んでも、ドラマチックな名作と感じられた。
「安達が原」も完全に元ネタがモチーフだが、SFに転換されて、
センチメンタルな切ない作品に仕上がっていて、美しい作品。
「荒野の七ひき」「ロロの旅路」は「荒野の七人」「心の旅路」が
タイトルの元ネタだろうと思うけど、内容に直接の関連は無さそう。
前者はSF物語の中で、利己主義と利他主義を相対させて描き出した、
テーマ性の高い作品。この物語性の高さがあってこその説得力。
後者は動物物で親子物。しみじみと沁みる、泣ける名作。