新・三つの棺-「幻影の書庫」日記

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蝉かえる

蝉かえる (ミステリ・フロンティア)

蝉かえる (ミステリ・フロンティア)

 
非常に地味なんだけど、なかなかどうして”飛び”のある作品を魅せてくれる。
 
本格っぽさを表に出している作品ではないんだけど、
意外に本格としての精度が高いのだ。
伏線はなかなか巧みだし、ノリリンの云うように、そこから導き出されるのが、
「何が起こっていたのか(ホワットダニット)」というものだったりするのが心地良い。
 
ブラウン神父、亜愛一郎を引き合いに出すのは可哀想だけど、
たしかにその系譜に連なる作品はそうは無いだけに貴重な作風かも。
 
ベストは「ザ・ベストミステリーズ2020」にも選ばれていた「コマチグモ」で。
その時にも書いたけど、ほんの小さなホワイが繋がりあって、
ホワットダニット(しかも同時にまさかのフーダニットにもなる)を構築する巧みさよ。
こういう作品こそ「本格王」で拾えるようにならなきゃ、だよね。
 
第二位は「サブサハラの蠅」だな。
こちらはホワットダニットが同時に壮大なホワイダニットにもなるという本書中随一の外連味。
 
この二作が飛び抜けて良いと思ったな。
 
とはいえ、その他の作品も、意外なサプライズを見せてくれる作品ばかりで、
短編集全体としての出来映えも非常に高い。
第三位を無理に選ぶとすれば、サプライズが洒落てる「ホタル計画」にしてみるか。
 
うん、個人的には「ワトソン力」と「透明人間は密室に潜む」の間の
昨年度の第二位に置くこととしたい。
 
採点も8点とギリギリまで悩んだ挙げ句の7点とする。
もうちょい外連味とか、主人公の魅力とか正体のつかみにくさとか、
なんか地味さを逸脱するシリーズとしての魅力があれば、8点にしたいとこなんだけどなぁ。