新・三つの棺-「幻影の書庫」日記

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息吹

息吹

息吹

 
待望のテッド・チャン第二短編集。
 
第一短編集である「あなたの人生の物語」
自分にとってのオールタイム・ベストのSF短編集。
これまでの生涯で読んできたSF短編集の中で、本当の頂点だと思う一作なのだ。
 
第一短編集はビジョンが凄かった。
着想やアイデアがとびっきりで、しかもビジュアル的にもほとばしってた。
「ストーリーの形自体は昔ながらのものなのかもしれない」と書きはしたが、
その道をぐんぐんと突き進んでいく様は、鮮烈で力強さに満ちあふれていた。
 
この第二短編集は深みに満ちている。
着想やアイデアをそれこそ全方向から、何一つ見落としが無いように吟味し尽くされ、
全ての可能性を検討し尽くした上で提供されたごとくの作品達。
ただ、やはりその分、一作目のような勢いや鮮烈さには欠けているように感じられた。
 
なので、やはり第一短編集がオールタイムベストというのは動かず。
とはいえ、それはほぼ頂点同士での比較というだけで、オールタイムのSF短編集を並べ上げても、
本作もまたその最上位層に置かれてしかるべき作品集だと、間違いなく確信できる。
 
一作目に続いて、やはり一生付いていくべき作者であることを再確認できた。
ただ、自分の一生が続く間に、いったいあと何冊読めるのかってのが問題だけど。
このペースだと、あと一冊読めれば御の字ってところだものなぁ。
 
さて、今回のベスト3は三作選ぶところまではすんなりと決まった。
ただ、その中は僅差で非常に迷ったあげくなんだけど、
ベストに選んだのは「不安は自由のめまい」。
第二位が「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」。
上記した全ての可能性を検討し尽くす手法を極めたのが、この二作だと思う。
このうち、最後の締めくくり方がきっちり閉じている方が、やはり自分の好みであるので、
僅差だけど前者を選んだ次第。
第三位は「オムファロス」で。
神が証明された世界で、神の喪失を描いた傑作。
その両方のアイデアがいずれも極まっている。