新・三つの棺-「幻影の書庫」日記

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時を歩く

 
現代作家ならではというべきか、従来の時間物のイメージの範疇に収まらない作品ばかり。
それぞれの矜持とチャレンジ精神の表れか、よくぞここまでユニークな作品が集まったと思う。
 
一番オーソドックスな時間物に一見思える冒頭の松崎作品だって、
それを見せ球として、予想できないくらいひねったくせ球を放ってきてるしな。
 
どの作品も独自の読み応えとオリジナリティがあって、良質のアンソロジーだと思う。
なかなか手を出す機会を逸してはいるが、現代日本SFも悪くなさそうだな。
 
ベストは、八島游舷「時は矢のように」で。
ゼノンのパラドックスを具現化してみせた着想にしびれる。
第二位は石川宗生「ABC巡礼」で。
これを時間物と呼べるかどうかは疑問ではあるが、
不条理な話がどことなくユーモアに包まれていく雰囲気がもうたまらん。
第三位は久永実木彦「ぴぴぴ・ぴっぴぴ」で。
時間物の王道の一つを見事に現代風にアレンジしている。
 
これらの他にも、門田充宏「Too Short Notice」は
最後の言葉の表現が違ってたら、一位にもしてたかもしれない
ロマンチックな作品だったし、
高島雄哉「ゴーストキャンディカテゴリー」も、
悠久な時間軸の持ち込み方が素敵だったし、
松崎有理「未来への脱獄」も、ホワイダニットに直結する
ホワットダニットの意外性を味わえた。
時代物には食指が動かない自分としては、
空木春宵「終景累ヶ辻」のみはピンと来なかったけど。