新・三つの棺-「幻影の書庫」日記

本格ミステリ書評サイト「幻影の書庫」の旧管理人のブログです。カテゴリー欄の全レビュー索引より、書評、映画評、漫画評、その他評の全一覧リストを見ることが出来ます。同じくカテゴリー欄の年間順位表より各年度の新刊ミステリの個人的ランキングを確認出来ます。

ノースライト

ノースライト

ノースライト

 
作者を知らずに読んだら、横山秀夫とは気付かなかったかもなぁ
……と、途中までは思ってた。
 
一級建築士が主人公なんだけども、得意の職業小説としての面を
そんなに大きく打ち出してるような作品ではなさそうに思えたから。
 
ところが終盤の怒濤のような追い込み。
 
ああ、たしかにこれは横山秀夫だわ。
 
この筆力で、おそらくは数多くの資料と調査に裏打ちれた、
でも、そんなことは微塵も感じさせない、静かで激しい描写で、
目にも見えぬまま、耳にも聞こえぬまま、ただ周りの空気の熱量だけが
いつの間にか上がっているような読書空間の中にいる自分に気付く。
 
その大きく拡がった空間が、424頁のたった一行に、
すとんと収束する。
 
潤んだ瞳の中で、その一行を何度見返したことか。
 
一生が報われるほどの”男の矜持”
 
「横山ミステリー史上最も美しい謎」と帯に書かれた割には、
そこにホワイや謎解きの醍醐味なんてほとんどなく、
ミステリとしては報われることの少ない地味な作品だったけど、
とにかく、この一行に震える心情が忘れられず、採点は7点。