新・三つの棺-「幻影の書庫」日記

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本格ミステリ戯作三昧

これは素晴らしい!
本格ミステリ大賞のダブルクラウン取って欲しいくらい。
 
評論は平易に書かれていて、とにかくわかりやすい。
納得できる内容であるだけでなく、今まで考えてなかったような
目からうろこな指摘が、ホントにてんこもりで、すごく新鮮。
あるときはパラドックスのような指摘が実に芯を喰って説明される。
 
文脈の中で語られないとわかりにくいとは思うが、
「犯人は謎を提示したくない」とか、
「記号的キャラは犯人を当てやすくする」とか、
「カーが書きたかったのは〈意外な犯人もの〉」とか、
「見えない男」の傑作性を、正反対の二つの原理を一作に
持ち込んだところにあるという指摘とか、
見立ては意外な推理と、ミッシングリンクは意外な真相と
親和性があるとの指摘とか、
ラジオドラマと中後期の作風への影響とか、
神津恭介の外道性の指摘とか、
特に評論として印象に残ったところ。
 
また評論的視点を持ち込んで書かれた贋作が、
短いながらも実に高レベル。これが本書の一番凄いところ。
 
ベストは「英都大学推理研VS「女か虎か」」できまり。
有栖川有栖名義で出されても、一切の違和感を覚えなかったと思う。
「女か虎か」について、新しい観点を持ち込んで、複数の解決を
納得のいく手順で描いていくところも評論的で、その融和がお見事。
 
第二位は「十角館の殺人ふたたび」で。
続編として見事に成立する、アイデアが秀逸すぎる。
 
第三位は「甲冑殺人事件」で。
短編ではあるがこの作品を仕上げてしまってるだけでなく、
高木彬光の作品の歴史を塗り替えるような着想まで盛り込んでる。
 
ほかにも「二十一世紀黒死館」の見立ての主導権が犯人から
探偵に移るという評論のポイントを見事に贋作化してるとことか、
問題編しかなかったラジオドラマに、おそらくラジオの結末以上の
見事な解決編をつけてみせた「私立探偵の冒険」とか、
「もう、○○さん、いったい何やっちゃってくれてるんですか」と
直接言いたくなるくらい(SRの会の例会に行ってた頃はよくお話ししてたので)
とにかく驚異的なレベルの贋作がたっぷりと集まっている。
 
採点は8点。このまま今年のベストは本作で決まりかも。