新・三つの棺-「幻影の書庫」日記

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「茶の湯」の密室

原書房様からの頂き物。いつもありがとうございます。
感想が遅くなって、申しわけありません。

前作で一区切り付いた神田紅梅亭寄席物帳が戻ってきた。
 
かなりマニアックな、趣向に富んだシリーズではあるのだけど、
その趣向はミステリというよりは、落語のもの。
 
果たしてそれが必ずしも読者のためになっているだろうかと、
実は少々懸念していた。
たとえば創作落語を一本まるまる創作するなどというのは、
勿論とても大変なことではあるんだろうけど、
それは作者側の愉しみになっているのではないかなと。
 
本書も中編二編が収録されているのだが、最初の表題作も
噺の矛盾点を見出し、そこを改変して矛盾を潰すというのも、
落語とミステリの融合の趣向では間違いないんだけど、
その双方にとって効果あるものとは、残念ながら思いにくかった。
 
ところがだ。
 
二作目の「横浜の雪」、これが秀作だった。
 
これこそ本当の意味での落語とミステリの融合なのではないか。
落語の世界に本格ミステリの手法で乗り込んでいった作品。
手法が結構馴染んでるように私には思えた。
 
落語に一つの可能性を示唆できているのではないだろうか。
こういう噺を専門とする落語家が登場しても不思議ではないような。
 
おまけに意外なホワイダニットも炸裂するし。
 
これは採点7点にしよう。