新・三つの棺-「幻影の書庫」日記

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千代有三探偵小説選I

千代有三探偵小説選〈1〉 (論創ミステリ叢書)

千代有三探偵小説選〈1〉 (論創ミステリ叢書)

作家になる前から探偵作家クラブの一員で、
例会での犯人当て、それも高木彬光の名編を二年連続正解し、
その縁で今度は出題者に選ばれ、そこで書いた「痴人の宴」がデビュー作。
 
元々そういう経緯があったせいか、犯人当ての形式が多いのが特徴。
玄人向けのデビュー作から、ど素人向けの掌編まで、その難易度は様々だけど。
 
中の人が大学教授なせいか、元々評論畑だったせいか、
文体はちょっとだけ難解で、あまり読みやすい作風ではない。
それでいて、妙にエロい作品も書いてたりするのが不思議。
 
さすがにベストは「痴人の宴」だな。
千代有三といえば、これを選ぶ、というのは
テーマ別でもなければ、アンソロジストとしては仕方ない話だろう。
たしかに朗読の犯人当てで全部の真相を言い当てるのは不可能だが、
大きなキモとなるアイデアを上手く隠し通せてると思う。
 
残る二作は悩みどころで、
性の乱脈の中から意外な犯人が飛び出す「エロスの悲歌」、
シンプルだけど適度な難易度の犯人当て「宝石殺人事件」、
意外な構図と犯人を炙り出す犯人当て「死人の座」
を同順としておこう。
 
まとめて読めることがあるとは思ってなかった千代有三作品が、
これだけ読めるということだけでも、採点は7点を切るはずもない。