新・三つの棺-「幻影の書庫」日記

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ケムール・ミステリー

原書房様からの頂き物。いつもありがとうございます。

ある屋敷の離れで起こる連続「自殺」事件。彼らは皆、引きこもりの若者だった。
人目を避けるケムール人のお面、伝言ゲームのような密室の死と符合。
彼らの身に何が起こっていたのか。
トリックの鬼才が満を持して放つ書き下ろし長編本格推理。

奇書。
 
と、まずは表現してみようか。
 
ケムール人のマスクを被った若者達が、次々に自殺していく館。
 
このケムール人をデザインした実在の成田亨、彼のモチーフが
ふんだんに盛り込まれている。
芸術ミステリは多々あるが、怪獣というモチーフは珍しく、
しかも全編に渡ってそういう扮装の人物が登場するなんてねぇ。
現実を取り込むことで、かえって現実とは異質感を感じさせる世界を
構築させる、著者ならではの『奇書』と言える作品かと。
 
そして、もう一つ別の言葉で表現するならば、
 
奇想。
 
これこそが本書にふさわしいだろう。
個々のトリックはなんかアナクロなものではあるけれど、
全編を通じての仕掛けと来たら、”絶句”する人もきっと多かろう。
 
自分はなんとなくわかってしまったけど、わかってしまった自分が
頭おかしいんじゃないかと思ってしまったくらいだもの。
バカミスという表現より、奇想ミステリの方がなんかしっくりくる。
 
ところで、自分は一般平均よりは明らかに特撮好きではあると思うが、
それでもケムール人やゼットン大魔神などのメジャーどころはまだしも
宇輪だとか、怪獣とは関係ない彫刻や絵画に至っては、全く未知数。
文章では宇輪のイメージが全く掴めず、画像検索しちゃったよ。
版権の関係かもしれないが、図版の幾つかは是非とも欲しかったなぁ。
 
採点は7点。奇書/奇想の類が読みたい人にはうってつけだ。