新・三つの棺-「幻影の書庫」日記

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ザ・ベストミステリーズ2015

ザ・ベストミステリーズ2015 (推理小説年鑑)

ザ・ベストミステリーズ2015 (推理小説年鑑)

今年は良作が揃っている。
 
その中でも、この二作が群を抜いている。
芦沢央「許されようとは思いません」
下村敦史「死は朝、羽ばたく」
 
いずれもホワイダニット分野の傑作短編。
どちらが年間ベスト作品に選ばれても当然と納得できる短編だ。
特に、その逆説的なロジックが読者の想像を明らかに上回る、
芦沢作品の方を私は本年度のベストに推したい。
日本推理作家協会のHPを見に行ったら、今回は受賞作無しだったらしいが、
この出来映えであったら、是非ともどちらかに授賞して欲しかったなぁ。
 
さすがにこの出来の良さは無視できなかったのか、
「ベスト本格ミステリ2015」にもこの二作のみ重複収録されているが、
「本格」に分類するのはちょっとずるい気はするかな。
(それぞれに巧みに伏線は張ってあるとは言えるけど)
 
残るベスト3の一角も迷わず、両角長彦「不可触」に決定。
サスペンスの描き方から、これしかないというホワットダニットに
決着するプロットが実に巧み。真実の暴き方の外連味もとてもいい。
 
これら三作以外にも、見えていたつもりだった世界と
真実が全く違う世界だったことがわかるというような、
そういう構造の作品がとても多く、全体のカラーが整っている感じ。
 
綺麗な転換を見せてくれる加納朋子「座敷童と兎と亀と」と、
ド汚い転換に唖然とする葉真中顕「カレーの女神様」との間に、
歌野晶午「散る花、咲く花」や白河三兎「自作自演のミルフィーユ」や
若竹七海「ゴブリンシャークの目」などが、グラディエーションを
描いている感じか。
 
年間アンソロジーなのに、そういう統一感も感じられて秀逸。
文句なく8点進呈させて欲しい。