新・三つの棺-「幻影の書庫」日記

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小さな異邦人

小さな異邦人

小さな異邦人

素晴らしすぎる!
 
亡くなった後にこんな作品集が刊行されるなんて。
 
一編一編の構図の構想に今もなおこんなにも驚かされるなんて。
 
構図があまりにも巧緻すぎ・複雑すぎて、すっきりと一瞬で驚かされる
というものではないのだけが唯一の欠点と言えなくはないとは思うが、
逆を言えば、それだけの凄みを見せつけられる作品ばかりということなのだ。
 
特に交換殺人からこんな地平にまで辿り着く「蘭が枯れるまで」や、
誘拐物の世界そのものを更に押し拡げていく表題作は、
生涯のベスト級に選んでもいいレベルの超傑作。
 
残るベスト3の一編も、どれを選んでも構わないくらいの質の高さ。
連城三紀彦らしい恋愛ミステリである「指飾り」、
こんな飛び抜けた着想でさえ本書の中ではシンプルと思える「無人駅」、
混沌とした不可思議な状況が魅力的な「さい涯てまで」、
「暗色コメディ」のように、幻想が現実に塗り変わる「冬薔薇」、
どんな構図が待ち構えているのか予測さえ出来ない「風の誤算」、
ホントにどれでもいいくらいなのだけど、
複数の構図のひっくり返しが素晴らしい「白雨」を選んでみよう。
 
採点はもう9点でいいのではないかな。
オールタイムベスト級の短編集の一つに数えても構わないのでは。
 
「最後の贈り物」と書かれてはいるが、それは「最後の短編」という意味に理解しよう。
きっと単行本未収録の作品でもっと短編集は編めるはず。
 
連城三紀彦の最後の贈り物はまだ受け取っていないつもりだ……