新・三つの棺-「幻影の書庫」日記

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経眼窩式

原書房様からの頂き物。いつもありがとうございます。

経眼窩式

経眼窩式

島田荘司選 第6回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作。
 
思わず脳を背けたくなるようなオープニングから、厭ミス臭が濃厚。
えずいてしまうような描写が小心者の私にはホラー並みの威力。
 
そういうわけで構えてしまったのだけど、例の描写はともかく、
最後まで読むと、本作は意外に爽やかな作品だとすら思えてきた。
意外な構図がもたらす深み。心理の覚悟。
 
犯人の心理もそうだが、主人公の心理も実に機微に富んでいる。
この辺の表現力は新人とは思えぬ手練れだ。
 
この心理の表現力と社会派な犯罪の構築が、本書の最大の魅力だろう。
古い手法を現代的な闇ビジネスに繋ぎ込むアイデア
これがずっと発覚せずに済むとは思いにくいが、それでもあり得ると思える、
恐るべき犯罪システムには実に心寒くなる。
 
二転三転するフーダニットがあるとはいえ、自分の好む本格とは異質の作品なので、
私の採点としては6点だが、現代ならではの社会派として読み応え充分だと思う。