新・三つの棺-「幻影の書庫」日記

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私の男

ちょうど図書館の順番が回ってきて読んでる最中に、受賞のニュース。タイムリーだったな。
(「幻影の書庫」で扱う類の作品ではないため、感想はこのブログのみとする。なので長めに)

私の男

私の男

とはいえ、敢えて自分が読む必要のない作品だった。
よくこういうテーマで書き込んだな、とは思わせてくれたが、自分の中にプラスとなる感情や感慨や感動などは与えてはくれなかった。
時間軸を遡るこの構成にしたって、文学的な意味はあるのかもしれないが(落ちていく様を時間順で読まされても仕様がないのだろうし)、読者に訴える力としてはさほどでもなかったように感じられてしまったのだが。夢野久作「瓶詰の地獄」のように、感動を生み出す仕組みとして機能するのかと期待していたのだよな。ミステリ読みとしての意味の求め方なのかもしれないね。
たしかに「赤朽葉家の伝説」でも感じたように、彼女の作風としては感動を喚起するようなことは狙ってはいないのだろうと思う。淡々と、決して上滑りしない筆致は、本作でも全く変わってはいない。しかし本作に、心揺さぶられることはなかった。
独身時代であったならば、エロ漫画なんかでは背徳感というオマケ感覚(苦笑)も味わえて、近親相姦というのは比較的好きなシチュエーションだったりもしたのだが(なに、カミングアウトしてんだか)、自分の家庭持っちゃうともう駄目だよね。現実に自分の身にある状況だと、それをセクシャルな方向へは結びつけられない。まぁ本作をセクシャルな意味合いで読む人はそういないんだろうけど。
そういうわけで、共感も登場人物への思い入れも出来やしない自分にとっては、本書を読むことで心地良い時間も考えさせられる余韻も与えてはくれなかった。せいぜい得られるものと云えば文学的な興趣といったところだろうが、それは私のスタンスとして最も重きを置いていないところなのだから。
批判しているつもりはさらさらない。私に本書を受け入れるだけの土壌がないことを語っているに過ぎないのだ。
ミステリとしてのセンスはそう感じられない彼女だから、特に惜しいとは思わない。新たな世界に積極的にチャレンジしていっていただきたい。