新・三つの棺-「幻影の書庫」日記

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大傑作!映像で見る新本格!

ひょっとしたら、本年度最高の叙述トリックは、TVの世界に於いて為されたのかもしれない。
 
テレビ朝日くりぃむナントカ」で一番好きな企画は、「芸能界ビンカン選手権」である。たしかに過去コレまでにも、様々なアッと驚く意外性を提供してくれてきた。しかし、4/23放送の最後のビンカン・ポイント「実は国生さゆりもいた!」ってのは、まず間違いなく史上最高の驚きだったろう。
これはひょっとしたら、究極の叙述トリックであり、究極の映像トリックなのかもしれない。
 
解答者のタレントは、五人ではなく、六人いたのだ。それも最初から。カメラワークは、常に五人までしかフレームに収めていなかった。解答が開かれた後、すっとズームアウトして、六番目の席にいる国生さゆりを映し出したときの衝撃。ほとんどの視聴者は唖然呆然としたことだろう。
でも勿論、単純に隠されていただけじゃない。そう言われてみれば、声としては登場してる場面もあったし、いつの間にかめくられているフリップがあったりとか、幾つもの伏線はちゃんと張られていたのだ。
それだけではない。これを「究極」と呼んだのは、出演者自身(勿論、国生さゆりは除く)も騙されていたのだというポイントである。しかも別の観点から。視聴者は「いたのか!」と驚き、出演者は「いたことになってなかったのか!」と驚いているのだ。
 
これをミステリの観点から考えてみよう。作者(制作サイド)が読者(視聴者)に勘違いを生じさせる叙述トリックは、それこそ無数にある。この番組のように、最初からいたにも関わらず、読者の目から巧妙に隠されていた人物が最後に登場する(大抵は犯人として)という作品も、何作かは挙げることが出来る。また読者(視聴者)は知っているにも関わらず、登場人物(出演タレント)が騙されていた、という作品もあるだろう。番組で言えば、ドッキリ番組なんかはこれに当たる。読者(視聴者)と登場人物(出演タレント)に、同じ勘違い・同じ驚きを与えるのなら、割と簡単な話だ。
 
しかし、今回は一つの叙述トリックで、視聴者と出演タレントに、全く別種の(しかもいわば正反対の)驚きを与えている。これがメタ的に相互作用しているのも、本では実現しにくいものとして、「究極」と呼ぶ一つの要素にもなっている。読者にはこの人物が隠されてたのか、と登場人物が驚くミステリなんて読んだことないものね。
 
ね、凄いでしょ。まさに映像で見る新本格。伝説に残り得る究極ネタだと思うな。