新・三つの棺-「幻影の書庫」日記

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古畑の最終回を考えてみた

遅ればせながら「古畑任三郎ファイナル」鑑賞終了。三夜ともに"意外性"をもたらしてくれる話ではなかったが、充分に満足出来る完成度だったんじゃないだろうか。
三作を比較すれば、圧倒的に第一夜が良いだろう。倒叙物から一歩踏み出す展開だけでなく、バカミス・トリックの凝り方、堤幸彦風のくすぐり演出、藤原竜也のバカ演技の上手さに至るまで、シリーズ屈指の出来映えだったと思う。
第二夜は、何と言ってもイチローの演技が光る。見ているこっちの方が緊張してしまうのだが、見事にこなしていた。才能豊かな人は何をやらせても上手い。「嘘をつかない」犯人というアイデアもちょいとユニーク。
最終夜は普通の展開で普通に終わってしまったなぁ。倒叙物の先行く狙いは、第一夜よりも更にあからさま過ぎ。どちらも元々隠せる話ではないと割り切って、中途半端に意外性を意図することは止めたのかも。
静かなラストは、これはこれで納得。でも、ミステリの遊びを愛する自分としては、もっと派手な花火を打ち上げて欲しかったような気も。たとえば「犯人:三谷幸喜あるいは「被害者:三谷幸喜の最終話。ミタニンが殺されてしまうから、あるいは犯人として捕まってしまうから、もうこれ以上は続けられないんですぅ〜、というシリーズの〆。
あるいはやはり古畑任三郎自身の犯罪」、これだよね。たとえばこんなお話。

店のカウンタの中にある、特徴的なナイフのアップのシーンから物語は始まる。そのナイフを買う人物の手。シーン切り替わって店を出ようとする人物。その彼に店員が近付いて「お客様、お釣りをお忘れです」と、お釣りとレシートを手渡す。ちょっと怪訝そうに振り向いた顔は古畑任三郎だった。そのとき店の表でタクシーが止まる。慌てて店を出て通りかかったタクシーを止める古畑。「あの車を追って」手元のレシートを見る古畑。印刷された「ナイフ」という文字のアップ。
 
警察署のシーン。「またお手柄だね」というボスの言葉に、「仕事ですから」と笑みを浮かべる古畑。珍しく休暇を願い出る。理由を聞かれて「ちょっとやるべきことがありまして」と答える古畑。
 
古畑らしき人物が殺人を犯すシーン。その凶器は冒頭のあのナイフだった。被害者の名前は樋口大蔵。目撃証言から容疑者として古畑が浮上し、今泉、西園寺が秘かにマークすることになる。その二人の前で、怪しい行動を繰り返す、休暇中の古畑。
 
下手な尾行ですぐに見つかる今泉。開き直って「樋口、やっちゃったんでしょ」と言ってしまう。「お前がどうしてそれを?」「や、やったんですね?!」声が上ずる今泉。「あれはね、私だけが悪いんじゃないんだよ」「古畑さん!自首してください!」「馬鹿だね、お前は」笑う古畑。「そんなことするわけないだろ」「古畑さん!」くしゃくしゃ顔の今泉。「まだチャンスはあるんだから」泣き崩れる今泉を放って、歩き去る古畑。手を伸ばした今泉が古畑のコートを引っ張る。ハラッと舞い落ちる一枚の紙片。
  
古畑が立ち去ったのを見て、今泉に駆け寄る西園寺。「やっちゃったって。やっちゃったって。あの人、高飛びするつもりだよぉ〜。まだチャンスがあるなんて言ってたものぉ〜」 紙片を拾い上げた西園寺の顔付きが変わる。その紙片はあのレシートだった。
 
警察署のシーン。「レシートのナイフと凶器が完全に一致しました」報告する西園寺。「よし、古畑を緊急逮捕だ!」とボス。
 
カメラは正面から古畑を捉える。「あの〜、ちょっと申し訳ありません」そこに乱入して古畑を取り押さえる捜査陣。「古畑さん、あなたを樋口大蔵殺害の容疑で逮捕します」逮捕状を掲げる西園寺。「な、何を言ってるんだい、西園寺君」「言い逃れは通用しませんよ、古畑さん。あのレシートのナイフが凶器であることは証明済みなんです」「それはこの方の」手で指し示す古畑。そこに古畑とそっくりの格好をした男が立っていた。
 
ゆっくりと立ち上がる古畑。「そそっかしい店員がいましてね。どっかのバカみたいな。どうも私とあなたを間違えたみたいで、あなたに渡すはずのお釣りを私に渡してくれたんですよ。容疑者追いかけてて訂正も出来なくて。探しましたよぉ〜。このままじゃ泥棒になってしまいますからねぇ。まぁ、あなたもご存じですが、このコート、普通に見えても実はこだわりの品ですからね。そんじょそこらにはありません。あなたが全く同じものを着ていたのを覚えてましたから、こうしてなんとか辿り着けたわけです」ポケットから折り畳んだ一枚のお札を取り出す古畑。「さあ、これがあなたの貰うべきだったお釣りです。どうぞお受け取りください」「違う」「違いません」「違う、あんたのだ」「いいえ、あなたのお札です」「違うと言ってるだろ、その五千円はあんたのだ!」
 
横にいる西園寺を見る古畑。「西園寺君、今の聞いたよね」「はい、何でしょう?」犯人に向き返る古畑。「今、あなたは五千円とおっしゃった。どうしてお釣りが五千円だってわかったんですか?私は何も言ってませんよ」顔色が変わる犯人。「み、、見えたんだよ、あんたの渡そうとしているお札が」「これがですか?」ゆっくりとお札を広げる古畑。それは新二千円札だった。がっくりと腰を折る犯人。
 
「でも、古畑さん。それじゃなんで樋口やっちゃったって?」古畑に詰め寄る今泉。「そうそう、これを渡さないと私も犯罪者になってしまいますから。本当のお釣りです。どうぞ」連行されていく犯人に五千円札を手渡す古畑。お札の肖像画のアップ。もちろんそれは、樋口一葉

長々と失礼しました。とにかくお疲れ様、三谷幸喜さん。長い間、楽しませていただきました。どうもありがとうございました!