元年春之祭

元年春之祭 (ハヤカワ・ミステリ)

元年春之祭 (ハヤカワ・ミステリ)

舞台となるのは、紀元前の前漢時代の中国。
 
膨大な漢文古典の引用による、中国思想の蘊蓄の連打が
壮大な目眩ましのように読者を痛めつけてくれる。
 
勿論、その中には真相を読み取る上で重要な伏線も貼られているのだが、
細かすぎてあとで思い出せないようなたぐいのものではなく、
大きすぎて逆に目に入らないくらいのものだったりするので、
さほど理解しようと苦労せずに、さくさく気にせず読み進めても
大丈夫だったので、それなりにご安心を。
 
それと背反するようなもう一つの側面が、
作者自身の言葉を使えば「アニメ的なキャラクター表現への情熱」。
麻耶雄嵩に学んだと思われる、探偵役の少女のエキセントリックな言動と、
友人や小間使いとのSM要素も孕んだような百合的表現が全面に満ちている。
 
そういう両面から痛い作品ながら、二度にわたる読者への挑戦状を含んだ、
多重推理の面白さも堪能させてくれる、新本格的逸品であることもまた事実。
 
伏線をきっちりと推理に盛り込んで、真相を描き出す。
期待した以上の突飛さではなかったものの、
充分な意外性を持った動機と犯人の解明。
 
海外物は若干甘めの方針に則って、採点は8点。