新・三つの棺-「幻影の書庫」日記

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宙を数える

 
これもやはりアイデアがユニークな作品ばかりで、
サービス精神も存分に感じられはするけど、
従来の宇宙物のイメージの範疇を越えてる作品ばかりかといえば、
そうでもないので、個人的には「時を歩く」の方が断然好み。
 
オキシタケヒコ「平林君と魚の裔」
通商網の意味合いの謎解きは面白くはあるが、個人の趣味のゴリ押しというか、
宇宙スケールでそういう対立項ではないよなぁと思えて、納得度はいまひとつ。
 
宮西建礼「もしもぼくらが生まれていたら」
今回一番のハードSFってことで、個人的第3位。
宇宙スケールの課題に対するシミュレーション解の提示。
 
酉島伝法「黙唱」
独特の世界観とその文字的表現方法。
ただ、これは別世界のファンタジー物で、宇宙物ではないわなぁ。
 
宮澤伊織「ときときチャンネル#1【宇宙飲んでみた】」
動画サイトパロディ。雰囲気は面白いが、説明不足。
お遊びだからこそ、もっとでっかい屁理屈で補強して欲しい。
 
高山羽根子「蜂蜜いりのハーブ茶」
考えてみれば前例が皆無ってわけではないけど、宇宙物でこのジャンル物?!
という意外性にやられてしまって、個人的第2位。
 
理山貞二「ディセロス」
冒頭から難解で(世界設定がいまいち掴めず)、時間先読みバトルも
理解したとは言えないが、ジョジョを読むように愉しめたので、個人的ベストはコレ。
 

家族パズル

家族パズル

家族パズル

  • 作者:黒田 研二
  • 発売日: 2019/12/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 
白くろけんの軸の一つにもなっていた”ハートウォーミングな家族物”の
短編をまとめた作品集。
ここ数年ゲームのノベライズばかりという印象だったから、久しぶりに読んだな。
 
各種のアンソロジーに選ばれてる短編が何編も含まれてるので、
全体的に粒ぞろいで、高品質の短編集。
 
勿論全体を貫くテーマにもなっている家族愛が、
非常に心地よい読後感や感動を与えてくれるんだけど、
そういう物語として読ませるだけじゃないのが、さすがくろけんさん。
 
全ての作品で伏線が丁寧に貼られている。
意外なロジックや動機やミスリードで、心地よい驚きを味合わせてくれる。
本格ミステリとしても優れている短編集なのだ。
 
しかも個人的ベストは書き下ろしの「言霊の亡霊」。
これはさすがにやられるよなぁ。感じていた違和感が見事にほどける。
第2位は「我が家の序列」で。現実としては無理があるようには思うけど、
フィクションとしての心地よさは格別。
第3位は組み上げ方が完璧とも思える「はだしの親父」だな。
 
採点は8点に限りなく近い7点。
 

ショートプログラム ガールズタイプ

 
あだち充の初期短編集。
居候シリーズ三部作に、「恋人宣言」、「SEASON」、
「エースふたり」、「気まぐれパンチ」を加えた7作品。
 
「みゆき」の原型である「恋人宣言」や、それぞれ野球、ボクシングを
モチーフにした「エースふたり」、「気まぐれパンチ」は、
今のあだち充に至る道筋を感じさせるもの。
 
一方、台詞は一切無く、写真の羅列で四季を切り取りながら、
その実、二人の関係の進展性を示していく「SEASON」はちょっと異色。
コメディ調が強い「居候」シリーズも、ああ、初期だろうなと思える作品。
 
ベストは瑞々しい「恋人宣言」で、
次点は幼馴染み三人が「タッチ」の構成を想起させる「気まぐれパンチ」だな。
 

ティンカー・ベル殺し

 
あの児童文学の代表作の一つであるピーター・パンを、
あのディズニー映画の一つであるピーター・パンを、
こんなアンモラルな話にしちゃうんだぁ~
 
とか思ってたら……
巻末の著者による解説を読んでビックリ。
そもそもそういう話だったんだ。
全然イメージ変わっちゃうよ。
 
さて、本格ミステリとしての本作の出来映えだが、
スリードと伏線を効かしたトリックがお見事。
 
世界観を活かした意外性の演出は薄く(ミステリとしての意味での)、
アーヴァタールの呼応は、慣れてるので驚きには繋がらない。
この呼応に関しては、定めたルールを最大限に活かした見せ場が
用意されてるのは、本作のポイントの一つではあるけど。
 
なので、たしかに凄く決まってはいるんだけど、このトリックだけでは、
「アリス殺し」「ドロシイ殺し 」には及ばないというのが自分の評価。
とはいえ、迷い無く7点は確保。
 
さて、次に殺される物語少女は誰だろうか?
自分の予想は「グレーテル殺し」。お菓子の家の密室殺人。
でも、被害者と思われていたグレーテルは、実は生きているんです。
勿論、魔女の目が悪いってのが、トリックを成立させるキモなんですが。
ちなみに次点の予想は「フローレン殺し」。
#昭和世代の自分にとっては「ノンノン」ですけどね。