新・三つの棺-「幻影の書庫」日記

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こうして誰もいなくなった

こうして誰もいなくなった

こうして誰もいなくなった

 
表題作である中編を除いては、雑多な作品の詰め合わせ。
 
幻想譚とでも呼べそうな、ファンタジー寄りの作品が多い。
掌編が多いが、ショートショートというほどの切れ味の作品は無い。
なんとなく雰囲気を楽しむような作品ばかりで、
これぞって作品は無かったのが残念。
 
純粋な本格作品は「本と謎の日々」と表題作くらいで、
結局この二作品が群を抜いている。
ただ、それでも、なんだよなぁ~。
 
唯一の中編で、本書の目玉は明らかに表題作なのだが、
期待してたような作品とは違ってた。
というか、そもそもの動機が違ってたんだな。
 
自分の期待は、あの超有名作に挑むのだから、
ミステリとしての新たな趣向を盛り込んでくるのだろうというもの。
ところが有栖の動機は、こうすればあの作品を本格ミステリの形式に出来る、という
ミステリとしての”手法”を試してみたいというもの。
 
まぁ、これだけでは何なので、趣向が一つ追加されてはいるが、
それは蛇足みたいであまり感心できなかった。
 
本格の形式にしたところで、ロジックは浅すぎてそのまんまやん、
という感じだったし、そもそも本家でこの手法やったら無粋だよなぁと。
(本格じゃないけど、TVドラマ版もこんな手法じゃなかったっけ?)
 
というわけで、採点は6点。
 

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド

09/14(土) イオンシネマ新百合ヶ丘にて鑑賞。
 
これをタランティーノの最高傑作と評する人たちは、
どういうところを評価してるのかなぁ?
(皮肉ではなく、純粋な疑問です)
 
これまで観たタランティーノ作品の中では、
ダントツで至極真っ当な作品。
 
主役の一人であるブラピはそんなにはしゃべらないから、
会話劇の独特な感覚も薄かった。
 
その分、最後の20分くらいにタランティーノらしさが
凝縮されてはいるんだけどね。
 
「緊張からの緩和」ではなく、「緊張からの暴力」という
彼独特の作劇法が、全体構造として適用されたような作品。
 
伏線の回収というミステリ趣味なお楽しみも相まって、
多少おぞましくはあれど、それを凌駕する爽快感。
シャロン・テート事件を知っていればなおさら、
このやんちゃ坊やの演出にもニヤリとしてしまうし。
 
ただ、やはりそこまでが長いかなぁと思ってしまったな。
薄味のタランティーノ節だったので。
最高傑作と評する人たちは、このあたりも
色濃く感じられたりしたのだろうか。
(自分はタランティーノ・フリークではないのでわからなかっただけかな?)
 
ところで、監督自身も大好きなはずの
(「キル・ビル」の勝負服だけでも一目瞭然)
ブルース・リーの皮肉な演出は何だったんだろう?
やっぱり結構批判されてるみたいだしなぁ。

怪しいひかりの天才が好きです

昨日は妻がお出かけで、ちょうど息子も誕生日だったので、夕食は回転寿司のお持ち帰り。
近場の店がなくなってしまったので、このところは町田のスシローが我が家の定番。
というわけで、その引き取りも兼ねて町田まで歩きing。

  • 昨日の町田ブックオフ
    1. テロール教授の怪しい授業 1 石田点 モーニングKC ¥108
    2. SEASONS~なつのひかりの~ 高橋しん サンデーGXCSP ¥108
    3. アカギ-闇に降り立った天才 31 福本伸行 近代麻雀C ¥108
    4. 好きです、この少女まんが。5 異彩 KCDX ¥108

1.はテロやカルトのことって、よく理解してないよなぁと思って。2.は装丁も画も綺麗なので。3.はこれで残りは35巻のみ。4.は少女漫画の傑作集で、なおかつテーマが”異彩”ってのにものすごく惹かれる。
 

海街DIARY 9巻 行ってくる

 
静かな"結"。
 
現実と地続きのリアル感の中で、
さほど大げさではなく、さりげなく沁みていく、
このシリーズらしい締め方と納得できる静けさ。
(エベレストのどたばた騒ぎはあったけど)
 
特別に踏み出すわけではない、
「行ってくる」というスタンスが、
ちょうど良さ感で、しっくりとはまる。
 
それでいて、可能性は大きく拡がっていて……
 
素敵な作品をありがとうございました。

ショートショートドロップス

ショートショートドロップス

ショートショートドロップス

 
新井素子が3年をかけて、女性作家だけのショートショート集を編んだ作品。
まえがきで延々と言い訳が綴られてるとおり、
ショートショートというイメージに合致した作品というのは少ない。
上限50枚程度を目安にした掌編集というだけのものと捉えた方がいいだろう。
 
でも、だからといって、つまらないわけでは決してない。
このタイトルはよく付けたもので、たしかに色とりどりではあるのだけど、
粒は揃っていて、しょっぱさやほろ苦さや何とも言えない不思議な味や、
味付けは少しずつ違ってはいるんだけど、でも、それぞれにどこか甘い。
ああ、選者が新井素子だって、なんとなくわかる気がする。
女性作家特有のイヤらしさ、ドロドロとしたところなんかは、本書には一切無い。
 
起承転結が優れてる(特に「結」の部分ね)特出作品は無いので、
自ずと全体的な雰囲気に心惹かれる作品を上位に選びたくなるかな。
 
というわけで印象批評的な選出にはなるのだけど、
ベストは 三浦しをん「冬の一等星」かなぁ。
描き方と描かれる状況が好き、としか言い様がないけど。
第2位は萩尾望都「子供の時間」で。
隔離環境でAIに育てられた少女との出逢いを描く"理"の部分があってこその
"理"では表現できないラストが心に響く。漫画家の感性なんだなと感じる。
第3位は図子慧「ダウンサイジング」で。
認知症の感覚に対する、非常に現代的な表現。その斬新さが素晴らしい。
次点は本書中では最もショートショートらしい 恩田陸「冷凍みかん」で。